(1)「昔からオールイン(ALL-IN)と呼ばれる試合形式があったんだ」
(2)「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたものだ」
All-INと呼ばれる試合形式は昔からあった。ビル・ロビンソンが1938年に生まれる前からあった。しかし西暦何年ごろに始まったのか、分かるとよいのだけれど。
本当に「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたもの」だったのか?
もしそうなら、現在のMMA(総合格闘技)から、絞め技と蹴りを取り除いたようなものだ。
そういうすごい競技が何年ごろから何年ごろまで、どこで行われていたのか? もし「興行」として行われていたなら、MMAに関連して話題になりそうなものだ。小生不敏にして、このGスピリッツの記事ではじめて知った。不思議だ。不思議だ。
ビル・ロビンソンが「プロレスの温故知新」をする必要は毛頭ない。貴乃花が相撲の歴史なんか語る必要がないのと同じだ。
しかし、もし
「現在の総合格闘技に近いものが、昔のイギリスにあったらしい」
というようなことを聞いたら、ライターたる者
「エライこっちゃ」
と驚くべきだ。格闘技の温故知新に乗り出すべきだ。
「いつ、どこで、誰々が戦ったか?」
「どういう決まり手があったか?」
「新聞はどう報道していたか?」
見かねてど素人の私が乗り出しかけたのは、実はずいぶん前のことです。
柔道か柔術か(38)に、all-inという言葉が「レスリングで制限がないこと」という意味で初めて使われたのは1913年だと書き、例文を挙げている。
A fight is just a fight: Catch-as-catch-can, All-in, and Best-your-enemy-anyhow!
(戦いは戦いだ。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンでも、オールインでも、「何でも勝てばよい」式でも。)
もう一つ追加。柔道か柔術か(33)で
Wrestling: Catch-as-Catch-Can, Cumberland & Westmorland, & All-in Styles
という1928年の論文を紹介した。その一部と原文を挙げる。
カンバーランド・ウェストモーランド式、グレコローマン式、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン式、オールイン式、あるいは日本の相撲においてさえ、軽量級はふつう重量級にかなわない。
(Alike, therefore,) in the Cumberland and Westmorland, Graeco-Roman, Catch-as-Catch-Can, All-in, or even the Japanese sumo styles of the art, lightweights do not usually contend against heavyweights.
これらのAll-inはどういうレスリングか? 「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたもの」ではないでしょう。
言葉の専門家(プロレスはもちろん素人)としては、ここまで調べれば仕事は終わりだ。大体の見当としては(33)で書いたように
catch-as-catch-canは、グレコローマンのような制限がないレスリングという意味だ。
20世紀になって、さらに制限が少ないオールイン(all-in)式レスリングが現れた。これが興業として行われるようになったのが、現在のようなプロレスである。オールインとは「何でもあり」の意味であるが、もちろん本当に何でもありではない。目潰しなどの危険な行為は当然禁止である。格闘技戦で使うようなパンチやキックも禁止である。暗黙の了解に反するような行為も事故につながるから当然禁止である。
ということになる。ここまで「見当」をつければ素人の出番は終わりです。
あとは、もしプロレスの専門家という者がいるのなら、「そんなことはない。いつどこでこういう試合があったことを見てもそれは間違いだ」と反証を出してくれればよろしい。もちろん「その通りです」と言ってくれてもよい。
でもビル・ロビンソンがこう言いました? だめ。通訳は英語ペラペラでも内容が分からないと適当にごまかします。本人から直接英語で聞いても、信用はできるとは限らない。
ロビンソンはものすごく強かった。しかし昔の英国の話をさせて正しいという保証にはならない。彼はあくまでインフォーマント(現地情報提供者)扱いすべきだ。「いつ、どこで、誰が」を問いたださずに信用してはならない。(まだ続く)
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