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2006年2月 5日 (日)

ヴェド・メータについて

『ガンディーと使徒たち』巻末の著者紹介
ヴェド・メータ Ved (Parkash) Mehta
1934年インドに生まれる。オックスフォード大学ベイリオル・カレッジで歴史学を専攻し、ハーバード大学大学院を経て、1961年-94年『ニューヨーカー』誌のスタッフ・ライター。現在はフリーランスの作家。米国各地の大学で英文学と歴史学の客員教授をつとめる。処女作Face to Face (1957)に始まる著作は、英国現代哲学論『ハエとハエ取り壺』(Fly and the Fly-Bottle,1963 邦訳みすず書房1970)、プロテスタント神学論、変形生成文法論、現代インド論、短編小説集など多岐にわたる。さらに父親の伝記Daddyji (1972)から最新刊のThe Red Letters (2004)まで、著者がContinents of Exile (流謫の大陸)と呼ぶ一連の自伝的著作も、20世紀初めのロンドン、独立前のインド、1950年代のオックスフォード大学、全盛期のニューヨーカー誌など多彩な背景を持つ。25冊の著書の過半はニューヨーカーに連載された。米国に帰化し、ニューヨークに住む。http://www.vedmehta.com/

Ved_daughters

 メータについて注目すべきことは、彼が四歳で失明した盲人であるというだ。ところが、『ガンディーと使徒たち』を読んでも、著者が盲人であるとは一言も書かれていない。それどころか、「彼女はしわの寄った白いカーディーの布に黄色で縁取りしたサリーとかすかに緑の混じった白のチョリを着ている」「彼は60代後半だろう。大きな耳の上にカールした白髪の房が残っている。額は円く広く、小さな目の瞼ははれぼったい。長くとんがった段鼻で剛毛ような小さい口ひげを蓄え、口はややおちょぼ口だ」というような視覚的描写が至る所に出てくるので、読者はまさか著者が全盲であるとは思わない。

『ガンディーと使徒たち』訳者あとがき
本書はVed Mehta, Mahatma Gandhi and His Apostles, Viking Press 1977(ペーパーバック版Yale University Press 1992)の全訳である。本書は一九七六年に『ニューヨーカー』誌に全文が連載された。原著に注はないが、翻訳では最小限の注をつけた。用語解説、年表、索引は、訳者が作成した。
 著者ヴェド・メータは、一九三四年に英領インドのパンジャーブ州ラホールで生まれた。父親は英国で医学教育を受けた高級官僚だった。インドの独立は、メータが十三歳の時である。メータ家はヒンドゥー教徒であるから、パキスタン領となったラホールから難民となって逃れた。本書の難民の描写は、著者の個人的体験に裏づけられている。当時の体験は、自伝の一部The Ledge Between the Streams(『川の中の岩礁』一九八四)に描かれている。
 メータは四歳の誕生日直前に髄膜炎を患い、視力を完全に失った。本書を書くには「四感を最大限に動員」し、同行者の視覚を借りたのである。膨大な資料はすべてamanuensisに朗読してもらったという。この単語は辞書には「筆記者」とあるが、目の不自由な人が学業や著作を行うための助手である。メータはamanuenses(複数)に頼って、カリフォルニアのポモナ大学、オックスフォード大学、ハーバード大学大学院を卒業し、口述筆記で二十五冊の本を書いている。
 メータの著作には二系列がある。一つは彼がContinents of Exile(流謫の大陸)と呼ぶ一連の自伝的著作で、もう一つは本書を含めた一般の著作である。後者では、メータは自分が盲目であることに一切触れていない。しかし、彼の本は自伝的著作を含めて過半がニューヨーカーに連載されたから、英語圏の読者はよく知っていることなのである。
 メータは一九六一年から九四年までニューヨーカーのスタッフ・ライターであった。これは編集部員ではなく、基本的にはフリーランスの作家である。編集部内に個室を提供され(メータの場合には助手がついた)、著作は最初にニューヨーカーに載せるという契約を結ぶだけである。
 一九五二年から八七年まで、ニューヨーカーの編集長はウィリアム・ショーンであった(謝辞に彼の名をあげている)。ショーンは商業主義を排し、インド、言語学、神学、哲学などの地味な主題でメータに自由に書かせた。本書の前に書いた『ポートレート・オブ・インディア』は六七年から三年がかりで連載された。オックスフォード言語哲学を主題に『ハエとハエ取り壺』(みすず書房)を書くように奨めたのはショーンで、この本はベストセラーになった。メータは〈流謫の大陸〉の一部として書いたRemembering Mr. Shawn's New Yorker(『ミスター・ショーンのニューヨーカー』一九九八)で、彼の「見えざる編集の業」(副題The Invisible Art of Editing)を偲んでいる。

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