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2006年5月 1日 (月)

ガンジーと肉食

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〔17歳のガンジー。左は長兄ラクシュミダース〕

学校では、クラスメートがよく戯れ歌を歌った。

  イギリス人は力持ち
  力あるからちっぽけな
  インドの人を支配する
  イギリス人は肉喰らい
  肉を食うから大きくて
  身の丈何と八フィート
  
 メータブはムスリムなので肉食をしていた。ガンディーは正統派のヒンドゥー教徒だったから菜食だった。メータブはガンディーに、カルサンダースには何度もこっそり肉を食わせたことがあるのだと言った。学校の先生や生徒の多くも肉を食べていて、肉食のおかげで強くたくましくなっているのだ。インド人がみんな彼らのように肉を食えば弱い体も丈夫になって、英国人支配者を追い払うことができるというのである。メータブは町外れのアジ川岸の人が来ない場所にガンディーを連れ出した。彼は山羊の肉とパンを持ってきた。パンは英国人の食べるような酵母入りのものだった。メータブはガンディーにパンと肉を渡して、これを食えと言った。肉は革みたいに固かったが、ガンディーは頑張って噛み、吐きそうになった。その晩はほとんど眠れなかった。「私は怖ろしい悪夢に襲われた」と彼は書いている。「ウトウトしかけると、体の中でメエメエと山羊が鳴いた。私は悔恨に苛まれて飛び起きた」ガンディー家では肉食は厳禁で、ほとんど人肉食に等しい犯罪だった。カーティヤーワールのヒンドゥー教徒はジャイナ教の影響を強く受けていたからである。ジャイナ教は紀元前六世紀から五世紀にヒンドゥー教のバラモン偏重に対する反動として始まった宗教改革運動に起源を発しているが、数世紀を経る間にヒンドゥー教自体よりもさらに峻厳で保守的になっていた。ジャイナ教徒は、人間や動物だけでなく、昆虫、植物、土、火、水、風など、あらゆる分子と原子に霊魂が宿ると信じていた。涅槃に達するためには、ジャイナ教徒は人間に可能な限りの努力を払って生類を害することを避けねばならない。人は山羊や昆虫に転生すると信じられているから、何物も殺してはならない。このためジャイナ教徒は、虫を吸い込まぬように口には白いマスクをつけ、虫を踏みつぶさぬように夜は外出しない。黴菌を殺すのを恐れて歯を磨かず衣服の洗濯をしない者もいる。さらに厳格な一派になると一切衣服を纏わない。ジャイナ教徒にとっては、どこで食事をするかが大きな問題だった。異教徒の家は肉に汚染されている恐れがあるからだ。しかし彼らもガンディー家では安心して振舞いを受けた。ヴァイシュナヴァ派のグジャラート人はジャイナ教徒と同じように肉食を忌み嫌うことで有名だったからである。また、ガンディー家では母親が虫を殺させないこともよく知られていた。
 しかしラージコートにも学校教育とともに新思想が入って来ていた。ガンディーもメータブに唆されて、やがて肉食を楽しむようになった。アジ川の岸で初めて肉を食べてから一年ばかりの間、ガンディーはときどきラージコートの議事堂でメータブたち肉食の友人と会食した。彼らは手の込んだ料理を注文した。肉は食べ慣れた野菜などで口当たりよく味付けして、一見肉には見えないように調理してあった。これを指を使って、ただし英国人のように椅子に坐ってテーブルで食べた。会食から帰ると、親の手前を取り繕うのが大変だった。「食事時になっても私が食べたがらないので、母はどうしたのと聞く。私は『今日は食欲がありません。胃の調子がよくないから』と言うのだった」息子が肉を食べていると知れば母がどれほどショックを受けるかは分かっていた。嘘をつくのは良心がとがめたので、肉食は延期しようと思った。親がいなくなって好きなことができるまで待つのだ。
 しかし、カルサンダースはメータブと肉食を続け、その結果二十五ルピーの借財をこしらえてしまった。彼とガンディーは、カルサンダースの金の腕輪の一部を切り取って借金を返すことにした。両親は腕輪が欠けていることに気づいたが、二人は何も知らない、夜の間に盗まれたのだろう、と言い張った。しかしガンディーは後悔し、盗みを告白しようと思った。彼は告白を紙に書いて震えながら父親に渡した。「父は黙って読んだ。涙が頬を伝って落ち、紙を濡らした。父は目を閉じ、紙を引き裂いた。……私も泣いた」

『ガンディーと使徒たち』pp.118-120  カテゴリーの「ガンジー」に本書の他の箇所も抜粋あり。

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コメント

はじめまして。
かなり以前の記事だというのに拙記事にTBありがとうございました。ごめんなさい、今日まで気づきませんでした。
実は、こちらのブログには以前来させていただいたことがありました。TB戴いて不思議な気がしてます。
ガンジーさんも漱石もコナンドイルの作品も元々興味があったので、また来させていただきますねー。

投稿: のぞみ | 2006年5月 9日 (火) 21時51分

大変遅ればせながら、TBはらせていただきました。

ご翻訳のメーターの本も 読ませていただいております。また拙ブログで感想など書かせていただきたい、と思っています。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: コンドウ | 2006年6月 6日 (火) 15時45分

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