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2006年9月29日 (金)

高名な?依頼人(2)

 エドワード7世は皇太子時代にもホームズ譚に登場している。The Adventure of the Beryl Cononetである。ワトソンは年月日を記していないが、ベアリング=グールドによると1890年12月のことだという。

 きのうの朝のことでした。銀行の重役室におりますと書記が名刺を一枚取り次いできましたが、その名前をみて私はびっくりしました。それこそ誰ありましょう――いや、あなたにもこれだけは、このおかたのお名前が世界中の人の日常語になっているとだけしか申しあげないほうがよろしい。ともかくわが国最高の、最も尊いお身分のかたなのです。(延原謙訳)

Edward_vii_england

 用件はというと

「ホールダ君、きみは人に金子を用立てると聞いたが?」

 というのである。一度こういう金の借り方をしてみたいものですね。それはともかく、いくら偉い人でも担保が必要だということになって、Beryl Coronetを担保にした。
 このBeryl Coronetですが、延原謙氏は『緑玉の宝冠』と訳している。最新の光文社文庫版では『緑柱石の宝冠』である。
 緑柱石って何だ? 私は知らなかった。広辞苑で見てみよう。

りょくちゅう‐せき【緑柱石】ベリリウムとアルミニウムを主成分とする珪酸塩鉱物。六方晶系、六角柱状の結晶。塊状・粒状でも産出。純粋のものは無色。多くは緑色または淡青色で、やや透明、ガラス光沢がある。深緑色のエメラルド、青色のアクアマリンはその一種。
 
 平凡社世界大百科事典で「エメラルド」を見ると

ベリル(緑柱石)のうち,微量なクロムの含有によって鮮やかな緑色を示すものをいう。和名は翠玉。最古の宝石取引市場として知られるバビロンには,紀元前4000年の当時,すでにエメラルドが現れていたと伝えられる。女王クレオパトラもこの宝石を愛好し,彼女が所有していたといわれる鉱山の遺跡がある。鮮やかな緑色は新緑の候を思わせ,5月の誕生石となり,希望と幸福の象徴でもある。南アメリカのアンデス山中で大部分を産出し,とくにコロンビア産が品質・量ともに世界第1位。それに次ぐのがブラジルで,新産地の発見により良質石の産出が増加している。古い産地としてはソ連(現,ロシア)のウラル山中やインドが知られているが,現在の量はわずかである。アフリカでは,タンザニア,ジンバブウェのほかザンビア,モザンビークが知られている。エメラルドの合成は1940年代にアメリカで成功し,フランス,ドイツ,オーストリア,ソ連(現,ロシア),日本などでも盛んに行われている。      近山 晶

Emerald

 これはどうも『エメラルドの宝冠』なのではないだろうか? 「緑柱石」は鉱物の名前で、宝石としてはエメラルドなのだから。ベリルを別の片仮名のエメラルドにしてしまうのは変だ?
 しかし、Blue Carbuncleの先例があります。かつての延原訳では『青い紅玉』となっていたけれども、シャーロック・ホームズ・クラブの会員からいかにも変だという意見が出て『青いガーネット』に改めたのだそうだ。

 延原氏が『緑玉の宝冠』としたのは根拠があってのことだ。平凡社世界大百科事典のエメラルドの項目に澁澤龍彦氏が書いている。

聖書の《ヨハネの黙示録》4章3節に〈その座したまうものの状は碧玉,赤メノウのごとく,かつ御座のまわりには緑玉のごとき虹ありき〉とある〈緑玉〉も,エメラルドのことにほかならぬ。

 そもそもThe Adventure of the Illustrious Clientの話であったが、また横道に逸れてしまった。続きはまた。

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