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2006年10月11日 (水)

高名な?依頼人(4)

 正典にはillustrious clientという言葉がこの1902年の事件のほかに三度使われている。何という作品か当ててみて下さい。

(1) He opened the case, and there, imbedded in soft, flesh-coloured velvet, lay the magnificent piece of jewellery which he had named. 'There are thirty-nine enormous beryls,' said he, 'and the price of the gold chasing is incalculable. The lowest estimate would put the worth of the coronet at double the sum which I have asked. I am prepared to leave it with you as my security.'
  I took the precious case into my hands and looked in some perplexity from it to my illustrious client.

(2)  I have never known my friend to be in better form, both mental and physical, than in the year '95. His increasing fame had brought with it an immense practice, and I should be guilty of an indiscretion if I were even to hint at the identity of some of the illustrious clients who crossed our humble threshold in Baker Street.

(3)  "And why is he here?"
  "Because an illustrious client has placed her piteous case in my hands. It is the Lady Eva Blackwell, the most beautiful debutante of last season. She is to be married in a fortnight to the Earl of Dovercourt. This fiend has several imprudent letters -- imprudent, Watson, nothing worse -- which were written to an impecunious young squire in the country. They would suffice to break off the match. Milverton will send the letters to the Earl unless a large sum of money is paid him. I have been commissioned to meet him, and -- to make the best terms I can." 

 これくらい分からなくちゃ、ホームズ・ファンを名乗る資格はないでしょう。

(1)『エメラルドの宝冠』ですね。my illustrious clientはもちろんエドワード7世(ただしこのときはまだ皇太子)。途方もなく大きいエメラルドが39個ついた宝冠を担保にして5万ポンドを借りたのだ。何に使ったのだろう?

(2)『ブラック・ピーター』の書き出し部分。1895年の事件で正典に記録があるのは『三人の学生』『孤独な自転車乗り』『ブラック・ピーター』『ノーウッドの建築業者』『ブルース・パーティントン設計書』の5件だけ。いずれの依頼人もillustriousではない。ベアリング=グールドの考証によれば、有名な『トスカ枢機卿の死』の事件はこの年の5月か6月のことだという。依頼人はローマ法王レオ13世であったから、申し分なくillustriousである。ほかのillustriousな依頼人についても、ワトソンはメモくらいは残していると思う。探せばあるはずだ。

(3)『チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン』である。 レディー・イーヴァ・ブラックウェルはこれから伯爵と結婚しようという貴婦人である。こういう人がまさにillustriousなのだ。ここでもan illustrious clientを「高名な依頼人」と訳するのは駄目でしょうね。

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 高名=有名+偉い と定式化できると言った。しかしそれだけでは足らないようだ。
 平山郁夫画伯が「高名」なのは日本画における業績によってである。レディー・イーヴァ・ブラックウェルは別に業績などない。生まれつき偉いのである。
 こういう場合を日本語では何と言うか? どの英和辞典にも出ていないが「高貴な」で一応訳したことになるのではないか。(1)(2)(3)のいずれも「高貴な依頼人」と訳しておけば間違いないでしょう。
 しかし、そもそもillustriousという英語はどういう意味なのか? (続く)

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コメント

お願いです。いずれこのブログで、A Study in ScarletとThe Valley of Fearも採り上げてください。前者は「緋色の習作」と訳すべき、後者はよく分からないのですが、何か特別な意味が含まれているのではないか、と考えています。Wikipediaによると、The name "The Valley of Fear" is the English translation of the place name of an exceedingly narrow valley in the South of France. During the period of the Crusades, it was populated by the pious Cathars, and some suspect the Holy Grail arrived there from the Holy Land. とあります。GoogleでThe Valley of Fearを検索すると、ホームズ関係以外のThe Valley of Fearも少なからず引っ掛かるので、英米人(?)には分かる「何か」を暗示しているのではないでしょうか。聖書関係の言葉なのかもしれません。あくまでも憶測です。

投稿: 土屋朋之 | 2006年10月11日 (水) 23時09分

恐怖の谷はほんとに何かありそうですね。でも私は土屋さんがお調べになったことも初耳でした。ホームズ学の進歩のためにお互いに協力しましょう。これからもよろしく。

投稿: 三十郎 | 2006年10月12日 (木) 17時47分

いや私はただ思いつきだけで発言しているので、鋭く突っ込まれると弱いんですけどね。さて、ご存知の通り、ポーの新訳が岩波文庫と光文社文庫で出ました。嬉しいことに作品がダブっていないので両方買っても損がありません。で、昨晩約30年ぶりに「黄金虫(The Gold-Bug)おうごんちゅう」を読んだのですが、作中で、暗号解読に成功したルグランドがこんなことを言っています。`it may well be doubted whether human ingenuity can construct an enigma of the kind which human ingenuity may not, by proper application, resolve.` このせりふ、どこかで聞いたことがあると思ったら、ホームズがThe Dancing Men(私は「踊る人形-ひとがた」と読んでいます。「にんぎょう」じゃ変ですよね)で`What one man can invent, another can discover`と言っているのです。これって同工異曲の発言だと思いませんか。知る限りどの注釈書でも指摘していませんが、ドイルは、いやホームズはポーの有名な暗号解読ミステリを十分に意識してこのように語ったのだと思います。

投稿: 土屋朋之 | 2006年10月16日 (月) 20時00分

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