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2007年1月24日 (水)

センター試験を廃止しろ

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 1980年代のいつごろであったか、予備校の教員室で雑談していて、同僚の先生に
「共通一次試験はどうなりますかね。僕はそのうちなくなると思うけど」
と言ったことがある。共通一次試験というのは、現在のセンター試験の前身である。1979年から1989年まで行われ、1990年からセンター試験と改称された。
「なくなるものか。あんたは物の見方が甘いよ」
と一蹴されてしまった。この先生曰く、共通一次試験がこれだけ大規模に行われているということは、試験事務を担当する役人がたくさんいてポストがたくさんある、ということだ。役人がいったん出来たポストを手放すと思うかね。ポストがあればそのための仕事を無理にでも作り出すのが役人というものだぜ。

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「大学入試センター」という立派な役所が出来上がり(今は「独立行政法人」だという。ふつうの役所とどう違うのか?)、その役所でしかるべきポストに就いているお役人には仕事が必要だ。「センター試験」とはよく言ったものだ。本当にあの先生の言ったように、入試センターをなくせないのだから、試験がなくなるはずがない。
 まことに不明の至りだった。でも、「そのうちなくなる」なんて希望的観測を述べたのは、共通一次試験の弊害があまりにも明らかだったからだ。この試験の導入前に小室直樹氏が「共通一次試験は必ず失敗する」と予言していたが(毎日新聞社「エコノミスト」誌1979年1月30日、2月6日、2月23日号)、まったくその通りになったのだ。

Komuronaoki05_2

http://www.interq.or.jp/sun/atsun/komuro/

 小室氏の「共通一次試験は必ず失敗する」という記事は、上、中、下としてエコノミストの3号に載ったのだが、その副題はそれぞれ「階層構成機能を強め、特権校を助長」「社会科学的分析を欠いた対症療法」「受験産業栄え、教育滅ぶ」であった。まことにその通りではないか。
 というぐらいのことは、誰でも分かっているはずなのに言う人は少ない。
「青空学園数学科」http://www33.ocn.ne.jp/~aozora_gakuen/
の主催者が次のように述べている。

Aozoram

(以下引用)
 私の子供が99年に大学に入りました.今の大学はどうなっているのか見てやろうと思って,父兄の入学式入場券をくれたので,入学式にいってみました.
 学長は入学試験というものについて次のことを言っていました.
 センター試験は全くその人の力を測ることにはなっていない.今年の地理の問題で,ある国の主要な生産物を問う問題が出ていた.地理学の教授に聞いたが,大学センターが正解としているものを主要な生産物とは断定できない,と言っていた.それをマーク式で答えさせるなんて無意味だ.じっくり読めば読むほど時間が足りなくなるような試験は,試験でない.
 諸君は受験競争を勝ち抜いてここに来たのだが,大学での勉強は,受験勉強とはまったく違う.受験の学力と大学に入ってからの力とは別のものである.
 私はそれを聞いて無性に腹が立ちました.国立大学の学長が何を無責任なことを言っているのか.本当にセンター試験が無意味だと言うなら,センター試験を廃止するために学長としてなすべきことをすべきである.それをせずに,試験の弊害を入学式で得々としゃべるのは,偽善であり,無責任である.
(引用終わり)

 まことにその通り。誰かこの人に反論できるだろうか? こういう無責任ばかりがはびこって、どうなったか? 
 馬鹿が増えた。以前もある程度馬鹿はいたが、共通一次試験/センター試験以後は馬鹿が著しく増殖した。

 もう一つ引用をしたい。作家の村上春樹氏は1990年代の初めにプリンストン大学に滞在していた。そのときのことを講談社の雑誌『本』に92年から93年にかけて連載した。

 この『やがて哀しき外国語』の終わりの方で、プリンストンで会った「どうしようもない人(日本人)」たちのことを書いている。
(以下引用)
 でも中にはまったくどうしようもない人がいる。そしてそういう人々の多くは、どういうわけかいわゆる「超エリート」である。会っていちおうの挨拶をした次の瞬間から「いや、実は私の共通一次の成績は何点でしてね」と、滔々と説明を始めるような人々である。だいたい僕らが大学に入った頃には共通一次なんてものはなかったので、のっけからそんなこと言われても何が何やらよくわからない。しかしもっとよくわからないのが、自己紹介がわりに共通一次の点数を持ち出す人間の神経である。いったい何を考えているのだろうか。こういう人たちがエリートの役人として、日本で幅をきかせてエバッているのかと思うと(アメリカに来てもかなりエバッていた)、これはちょっと困ったことなんじゃないかなという気がする。
 という話をプリンストンで勉強している日本人の女子学生にしていたら、「あ、そういうの多いんですよ。珍しくありません。この前もひとり会いました」ということだった。ニューヨークから電車で帰ってくるときにたまたま日本人の男と隣になったら、それが派遣組の役人で、「僕は……省で……課長補佐(だかなんだか)をしていてね、共通一次は……点なんだよ」と延々まくしたてたらしい。馬鹿馬鹿しいのでろくに相手にしなかったら、腹を立てて憎々しげな捨て台詞を残して向こうに行ったという。「まったくあの人たち何を考えているんでしょうね」と彼女も呆れていたけれど、まったく本当に何を考えているのかしらん。(引用終わり。まだ続くけれど)

 信じられない。本当だろうか? やっぱり本当でしょうね。「高松市には甲村記念図書館がある」というのは村上さんが作った話だが、この本は『海辺のカフカ』のような小説ではない。エッセイなのだ。作り話を書くはずがない。
 もちろん昔から学歴自慢の人はいくらもいた。でも仮に「僕は東大卒だから早稲田卒の村上君より偉い」なんて思っている人がいたとしても、ひそかに思うだけで、まさか口には出さなかった。ましてや試験で何点だなんて! これは明らかに共通一次以降の現象である。共通一次試験とセンター試験は、「階層構成機能を強め、特権校を助長」しただけではない。馬鹿を作ったのだ。

 村上さんがプリンストンにいたのはもう十何年も前のことだから、この課長補佐(だかなんだか)の人たちは今や……省で指導的立場にいるはずだ。官僚を辞めて政治家になった人もいるだろう。
 これは怖いことだよ。ワタヤノボルみたいな奴も怖いけれど

 馬鹿はもっと怖い。何倍も怖い。

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