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2007年1月 5日 (金)

誤訳迷訳欠陥翻訳(1)

 この前、佐々木直次郎訳『モルグ街の殺人事件』が駄目だと言った(モルグ街/病院横町)。

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 しかしこの翻訳については、ずっと昔に痛烈な批判が出ていた。別宮貞徳教授の有名な「欠陥翻訳時評」が20年以上前に佐々木訳を取り上げ、「自動翻訳者の限界」を指摘している(『翻訳の世界』1984年9月号、『特選 誤訳迷訳欠陥翻訳』ちくま学芸文庫)。

 別宮先生は「自動翻訳機程度の仕事に満足する――いや、それをもって最高とする翻訳者が書くとこんな文章になる。」として例をたくさん挙げている。そのうち三つだけ取り上げます。

・僕はとうに、一人だけの犯人が彼の荷物を岸まで引きずって行ったことを話したときに、彼がボートを利用したらしいということをちょっと言っておいた。

・彼の才能と人好きのする性質とは彼女の注意をひき、また実際に彼は愛されていたようにも思われた。だが彼女の家柄に対する矜持はとうとう彼女に彼を捨てさせて……

・それの隠匿の方針が総監の方針のなかにあるものだったなら――それの発見は全然疑いの余地はなかっただろう、……

 第1例の別宮先生による書き直し

・ぼくは、犯人は一人で荷物を岸まで引きずっていったと前に話したけれど、そのとき犯人はボートを使ったんじゃないかとも言ったはずだ。

 第2例と第3例について、別宮先生曰く。

 第二の例のように、ほんの70字の間に「彼」「彼女」が六回も出てきてはそれこそカレ中毒を起こすし、第三例の「それの隠匿」「それの発見」はのどにつかえる。どこもまちがっちゃいないじゃないか、何が悪い、とおっしゃるか。その考えがまちがっとる、その料簡がよろしくない。たしかに語義はコンピューターみたいに正確だが、ポーは単語の意味一つ一つをまちがえずに解釈してくれというつもりで作品を書いているのではない。
 
 ところが「盲千人目明き千人」とはよく言ったもので、この佐々木直次郎訳を名訳だと思う人がいるのだ。だから青空文庫にも収録されるのだろう。(この差別語を含む段落は別宮先生の文にあらず。ブログ筆者の書いたものです。)
 別宮先生曰く。

 こういうコンピューター訳でも拾う神ありと言うか、この新潮文庫の解説者の曰く、「その正確で、鮮明な彫りの深い訳業によって、長く我々の感謝に値する仕事であった……これは、批評を別にしてのシャルル・ボードレールのポー翻訳に匹敵し、ほかの凡訳に比して坪内逍遙のシェイクスピア移植に該当する、といってもあえて過言ではないであろう」!!

 まったくビックリマークを二つも三つも付けたくなるね。
 しかし、この佐々木訳の場合はまだましな方だ。もっとひどい欠陥翻訳の例を別宮先生はたくさん挙げておられる。この次に少し見てみましょう。

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