« シャーロック・ホームズと「あの女」(6) | トップページ | シャーロック・ホームズと「あの女」完 »

2007年2月28日 (水)

シャーロック・ホームズと「あの女」(7)

 だいたい、ホームズとワトソンが話しているときに、女の名前が出ることは少なかった。
 それでも、たとえば、こういう会話はあったかも知れない。

ワ「ホームズ、ミス・ハンターのことは覚えているかい?」
ホ「ハンター? 覚えがないねえ」
ワ「ミス・ヴァイオレット・ハンターだよ。あの、ルカースルの事件のときの」
ホ「ああ、あの家庭教師か。彼女がどうかしたかね?」
ワ「いや、どうかしたというわけではないが、彼女もあの事件ではショックを受けたと見えて、家庭教師の仕事はもうやめると言ってたじゃないか」
ホ「そうだったかねえ」
ワ「そうだよ。今どうしていると思う?」
ホ「そんなことは知らんよ」
ワ「あれから、私立学校の教師の職を求めたらしい。今ではウォールソールの学校で校長をしているというから、大したもんじゃないか。君も勇敢だ、機敏だとほめていたね」
ホ「そうだったかな」

 というような具合で、ホームズははかばかしい反応を示さず、ワトソンを失望させたのだと思う。ミス・ハンターが依頼人として現れたときには、その態度や話しぶりに好感を抱き、「もしあなたが私の妹なら」ぶな屋敷の仕事は勧めないと言ったくらいなのに。

 もう一人のヴァイオレットにも、ホームズはまずまず好意的であった。ミス・ヴァイオレット・スミスの「顔に精神性があるから、タイピストではなくてピアノを弾く人だ」と言ったのである。しかし、彼女は婚約者がいた。
 さらにもう一人、ヴァイオレットがいた。しかしミス・ヴァイオレット・ド・メルヴィルは、「女なんて信用できん」というホームズの偏見を強めただけだった。
 ミス・メアリー・モースタンにもホームズは好意的だった。しかし、これは彼女が「模範的な依頼人」だったからであって、ワトソンのようにロマンチックな関心を抱いたわけではない。
 こういう依頼人の性別は女だったのだから、ホームズがそのうちの一人をthe womanと呼んでもおかしくはないのだが、そうは言わなかったのである。

 ハドソン夫人も女なのにthe womanとは呼んでもらえなかった。ホームズにとって彼女は常にMrs. Hudsonか、the landladyかである。
 一度Mrs. Turnerと呼んだことがある? それは違うと思う。いくらホームズが女に冷淡であっても、毎日ご飯を食べさせてくれる人の名前を間違えたりはしない。
『ボヘミアの醜聞』のときは、たまたまハドソン夫人の体調が悪くて、従姉妹のターナー夫人に手伝ってもらっていたのだろう。「マーサ、あなたは休んでらっしゃい。お盆は私がもって行くから」というようなことだったはずだ。

 1888年3月20日、往診の帰りにベーカー街を通りかかったワトソンがブラインドにうつったホームズの長身痩躯を見て矢も立てもたまらなくなり、221Bの旧居を訪れる。このときの二人の問答は、記録によれば

「結婚は君に合っているようだね。この前より7ポンド半は太っただろう」
「7ポンドだ」

だった。しかし、その前にかわした言葉をワトソンは省略しているのだ。たぶん次のようなやり取りがあったはずだ。

"Holmes, who is that dragon of a woman?"
"Formidable, isn't she?  She is Mrs. Turner, a cousin of Mrs. Hudson's."
「おい、ホームズ、あのドラゴンは誰だい?」
「なかなかのものだろう。あれはターナー夫人といってね、ハドソンさんの従姉妹だよ」

 221Bの戸口にターナー夫人が立ちはだかり
「どなたですか? お約束のない方はお入れできません」
 などと剣突を食らわしたはずだ。
 また、本題から逸れてしまった。

|

« シャーロック・ホームズと「あの女」(6) | トップページ | シャーロック・ホームズと「あの女」完 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21109/5521951

この記事へのトラックバック一覧です: シャーロック・ホームズと「あの女」(7):

« シャーロック・ホームズと「あの女」(6) | トップページ | シャーロック・ホームズと「あの女」完 »