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2007年3月21日 (水)

入学試験について(1)

 明治10年(1877年)1月、松山藩士族秋山好古(1859-1930)は、陸軍士官学校第3期生の入学試験を受けに上京した。
 秋山好古は市ヶ谷の尾州屋敷跡にある陸軍士官学校に行き着いた。

『坂の上の雲(1)』文春文庫版60頁

 部屋の奥の方に士官がいた。色白で目がほそくあごの張った男で、近づいてきて、
「おまえはどこの藩かな」
 といった。大尉である。校庭で見たフランス士官とそっくりの軍服をきていたが、顔はあきらかに日本人で、なまりは長州であった。
(これが、日本の士官服か)
 と、好古はうまれてはじめて士官というものの実物を見た。あとで知ったことだが、寺内正毅と言い、長州藩の諸隊あがりの士官で、生徒司令副官という役目をつとめていた。
「試験は、漢文と英語と数学じゃ」
 と、大尉はいった。
 好古はおどろいた。英語というのは師範学校のころに一年ほど習ったが、数学はほとんど知らない。漢文だけは幼少のころからやってきたから多少の自信があった。それを話すと、
「では、漢文だけで受けい」
 と、この大尉はひどく大ざっぱなことをいった。要するにどの学課であれ、試験官が答案から頭の内容を察し、よければ合格させようというものであるらしい。

 こういう試験に合格した秋山好古は

27年後の日露戦争(1904-05)では陸軍少将、騎兵第一旅団長として出征した。彼は日本陸軍の騎兵を率いてロシアのコサック騎兵と対抗した。(しかし、この写真を見るとまるで西洋人のような顔ですね。司馬さんもそのことは書いているけれど。)

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 コサック騎兵は当時世界最強と言われ、まともにぶつかれば日本の騎兵はたちまち粉砕されていただろう。(写真を見ただけで実におっかない。日本の騎兵は軽騎兵だけで、武器は騎兵銃とサーベルだった。この写真のように槍を武器にする重騎兵はなかった。日本人の体力では槍をかざして突撃はできなかっただろう。)

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  秋山は「コロンブスの卵」とも言うべき策を取った。騎兵の存在理由と考えられていた突撃をさせず、下馬して戦闘させた。秋山の先見の明から機関銃を装備していたことも役に立ち、秋山支隊はロシア軍の最強部隊の圧力を支えて勝利に貢献した。

 秋山好古が陸軍士官学校に入学した明治10年は西南戦争の年であり、当時は学校制度自体が整っていなかったこともあり、入学試験などはまことにいい加減なものであった。

 日露戦争に勝利し学校制度も整ってくると、陸軍士官学校と海軍兵学校は秀才の集まる学校になり、入学試験もむつかしくなった。「数学はほとんど知らない」という状態ではもちろん入学できなくなった。それで優秀な人材が集まったかというと……
 
 明治41年(1908)年に入学し43年に卒業した陸士22期学生からは、たとえば牟田口廉也(1888-1966)が出ている。牟田口は陸軍中将第15軍司令官として1944年3月からインパール作戦を指揮したが、補給を無視したため惨憺たる失敗に終わった。牟田口は敗色濃厚となるや軍を置き去りにして帰国した。

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撃つに弾なく今や豪雨と泥濘の中に傷病と飢餓の為に戦闘力を失うに至れり。第一線部隊をして、此れに立ち至らしめたるものは実に軍と牟田口の無能の為なり(第15師団長山内正文の戦闘詳報)
ウィキペディアより。

 明治41年(1908年)は、夏目漱石の『三四郎』が朝日新聞に連載された年である。九州から上京する三四郎は汽車のなかで髭の男(東京で再会して広田先生であると分かる)と知り合う。

髭の男は、
「お互いは哀れだなあ」と言い出した。「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になってもだめですね。もっとも建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応のところだが、――あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれよりほかに自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」と言ってまたにやにや笑っている。三四郎は日露戦争以後こんな人間に出会うとは思いもよらなかった。どうも日本人じゃないような気がする。
「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、
滅びるね」と言った。

 実際に滅びたのである。

 陸軍士官学校というのは、今でいえば防衛大学である。入学試験はどうなっているか?

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