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2007年4月17日 (火)

棍棒かステッキか(3)

 独身のまま中年になった名門の女性、レディ・フランセス・カーファックスがスイスで失踪した事件を調査して欲しいという依頼をホームズが受けたのは、1902年のことだった(ベアリング=グールドの考証による)。
 しかし、このときホームズにはロンドンを離れられない事情があった。それで代わりにワトソンに調査に行ってくれないかと言う。
「ひとつ気分転換をしてみないか。ローザンヌなんかどうだい、ワトソン。切符は一等、経費は使い放題の大名旅行なんだがね」
 ワトソンはローザンヌからバーデンへ、さらにフランスのモンペリエまで、レディ・フランセスの残した痕跡をたどって行く。
 モンペリエでレディ・フランセスにつきまとっていたという実に野蛮な感じのイギリス人の大男をつかまえ
「レディ・フランセスをどうしたのですか?」と問い詰める。

The fellow gave a bellow of anger and sprang upon me like a tiger. I have held my own in many a struggle, but the man had a grip of iron and the fury of a fiend. His hand was on my throat and my senses were nearly gone before an unshaven French ouvrier in a blue blouse darted out from a cabaret opposite, with a cudgel in his hand, and struck my assailant a sharp crack over the forearm, which made him leave go his hold.
 男は怒号をあげて虎のように跳びかかってきた。格闘にかけては人に引けを取ったことのない私だが、こいつは握力がむやみに強く悪魔のように獰猛だった。首を絞められて気を失いそうになった。そのとき、向いの居酒屋から青いジャケットの無精髭のフランス人労働者がとび出してきて、持っていた棍棒(cudgel)で男の前腕を鋭く叩いた。これで男は手を放した。

Lady02

 この挿絵はよく描けていますね。ワトソンはほんとに失神しそうだ。このcudgelは長さ45cmくらい、やや先太の手頃な棍棒ですね。
 つまり、これで分かったのは
cudgelとは「人を殴るのにも使えるステッキ、または棍棒」であることだ。
 念のために言えば、cudgelを棍棒にしたのは挿絵画家の解釈であって、本当はステッキだったかも知れない。ホームズが化けていたのはouvrier(労働者)であってapache(与太者)ではないのだから、ステッキでなく棍棒を携帯するのはちょっとおかしい。「どうせフランス人だから」という画家の偏見がないだろうか。

 この絵のような殴打専用の短い棍棒を、ステッキと紛らわしくないように言うにはまた別の単語があるのだ。(続く)

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挿絵いいですねえ。 挿絵を描くのが夢です。 [続きを読む]

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