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2007年4月18日 (水)

棍棒かステッキか(4)

 殴打専用の短い棍棒は何というのか、という話でした。

『エメラルドの宝冠』の事件(The Adventure of the Beryl Coronet 訳題についてはここ参照)が起こったのは、そもそも「イギリスで最も身分の高い、最も高貴な、最も尊いお方」がよくないのだった。

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 このお方が急に5万ポンドのお金がいるというので、国宝のエメラルドの宝冠を持ち出して、銀行家のアレクザンダー・ホールダー氏のところへ担保に置いていった。今のお金にするといくらくらいだろう? そもそも何に使ったか? この宝冠は大きなエメラルドが39個ついていて、金の彫物だけでも計り知れぬほどの値打ちがあるという。

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 高貴なお方は
「言うまでもないことだが、この宝冠に万一のことがあれば、大変な騒ぎになるであろう」
 と仰せられたが、果たしてその「万一のこと」が起こってしまった。ホールダー氏は気が狂いそうになった。
 ホームズは八方奔走して、悪者はサー・ジョージ・バーンウェルだということを突き止め、乗り込んで行く。

At first, of course, he denied everything. But when I gave him every particular that had occurred, he tried to bluster and took down a life-preserver from the wall. I knew my man, however, and I clapped a pistol to his head before he could strike. Then he became a little more reasonable.
もちろん最初は知らないの一点張りでした。しかしあの晩の出来事を逐一話してやると、怒鳴って壁から棍棒(life-preserver)を取りました。しかし、こちらは相手を知っていますからね、機先を制して頭にピストルを突きつけてやった。これで少々聞き分けがよくなりましたよ。

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 このlife-preserverを「護身用の棍棒」なんて訳す人がいますね。辞書にそう書いてある? それはあくまで辞書の説明に使う日本語です。訳文に使ってはいけない。「君のは犯罪用だが、僕のは護身用の棍棒だ」なんてことは言えないでしょう。
 新体操用の棍棒なんてのもあるから、ひょっとして区別するために護身用と言ったのかな? でもホームズのころはまだ新体操なんてなかったでしょう。ヴィクトリア朝の女性は床まで引きずる長いスカートをはいていた。レオタードは発明されていない。

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「護身用の仕込杖」と訳している本もある。論外です。仕込杖というのは「座頭市」が持っているようなやつでしょう。抜いて使うのだ。辞書を盲信するなかれ。

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Life-preserverはほかの事件でも使われています。(続く)

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