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2007年5月12日 (土)

ガンジーは無抵抗主義者か(2)

J

 受動的抵抗passive resistanceという言葉は、ガンジーが初期にサティヤーグラハの訳語として使っていたものである。

 1906年、南アフリカのトランスヴァール政府は、インド人の移住を禁止するために「アジア人登録法」を制定しようとしていた。ヴェド・メータの『ガンディーと使徒たち』によれば

……この法律が成立すれば、トランスヴァール在住のインド人はすべて指紋を採られ、政府発行の登録証を常時携帯しなければ罰金または懲役に処せられるか本国に送還されることになった。登録を許されるのは法律の成立時にトランスヴァールに在住しているインド人だけだった。インド人たちは犯罪者のように指紋を採られたくなかったし、犬が首輪に鑑札をつけるように登録証を持ち歩きたくなかった。さらに、もしこの法律が通れば、インド人をすべてトランスヴァールから、やがては南アフリカ全土から追い出すために使われる恐れがあった(当時トランスヴァールには約一万三千人、南アフリカ全土では約十万人のインド人がいた)。またほかの植民地でも同じような法律が作られるかも知れなかった。
 ガンディーの指導の下に、トランスヴァール在住のインド人はアジア人登録法に対する反対運動を開始した。ヨハネスバーグの古いエンパイア劇場で大集会が開かれ、作戦計画が練られた。「法律が成立すればインド人は処罰を覚悟して抵抗する」という決議案が提出された。討論が始まると、一人の男が立ち上がって激しい口調で発言した。余人は知らず自分は、神を証人として、絶対に登録には応じないと彼は言い切った。ガンディーはこの男が神の名を口にしたことに打たれた。ガンディーは出席者に注意を促した。もし「神を証人として」決議案に賛成するならば、厳粛な誓約をしたことになり、決して取り消すことはできません、と彼は言った。「この決議は多数決では採択できません。誓約によって他人の行動を左右することはできないからです。……各人が自分の心を検討して下さい。自分は最後まで戦い抜く力があると、内なる声が告げているでしょうか? その場合だけ、誓いを立てるのです。誓いが実を結ぶのもその場合だけです」エンパイア劇場に集まった者全員が立ち上がり、右手を挙げて、神を証人として、自分は決して登録には応じないと一斉に誓った。政治的権利のための闘いとして始まった運動が、魂の救済の闘いとなったのである。救済の達成は、ガンディーが確信し始めていたように、真理と愛を通じてのみ可能であった。サティヤーグラハの力、ガンディーが生涯をかけて精錬して行くことになる原理を通じてのみ可能であった。
 この前後にガンディーはこう書いている。

 サティヤーグラハは「受動的抵抗」と英訳される。この言葉は、苦痛を我が身に引き受けることによって権利を獲得する方法を指す。これは武器による抵抗の反対である。良心に反することを為すのを拒むとき、私は霊の力を使う。たとえば、時の政府が私に適用される法律を作ったとする。私はその法律に反対である。もし暴力に訴えて政府に法律を撤回させるならば、私は肉体の力を使う。法律に背いて処罰を受け入れるとすれば、私は霊の力を使うのである。これは自己犠牲を伴う。……さらに、仮にこの力が不正な目的に使われたとしても、害を受けるのは使った者だけなのだ。
(同書pp.166-167)

 受動的抵抗passive resistanceという言葉はあまりに消極的であるとして、ガンジーはやがて自身の造語サティヤーグラハSatyagrahaをそのまま使うようになった。
 英語の辞書でこの語について正しい記述をしているのはランダムハウス英和辞典である。

Satyagraha
【1】(インドで)サティヤーグラハ[真理把持]運動:1919年 M.K.Gandhi が政治的社会的改革の方法として始めた非暴力不服従抵抗政策.
【2】(一般に)非暴力不服従運動.
[1920.<ヒンディー語=サンスクリット語 satya 真理+agraha 強い愛着,固執]

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コメント

この記事を拝見して、

自分と同じ時期に地球上の異なった地域にいて
他者の運命を自分のそれとして受け止めること

明治学院元学長 森井眞さんのことばを思い出しましたよ。
ありがとうございました。

投稿: m-maki | 2007年5月13日 (日) 03時45分

「聖者」ガーンディーと真実 宮元啓一
http://homepage1.nifty.com/manikana/m.p/articles/gandhi.html

「サッティヤーグラハ」に関する参考まで

投稿: 無宗だ | 2007年5月13日 (日) 14時51分

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