ものづくりのDNA?
翻訳業というのは因果な商売だ。
原文あっての翻訳だ。勝手に変えてはいけない。原文がアホなら当然訳文もアホになる。これは仕方がない。
お客様第一。
お客様は神様です。(*The customer is God.は、ちょっとね。The customer is always right.くらいかな。)
といっても、ものには限度があるので、特に和文英訳の場合は、「どうしても訳せません。原文を変えていただけませんか」と言わなければならないことがある。
この間、一つありました。
「ものづくりのDNAを育てる」というんだけど。どうしたらいいですか?
こういうのは困る。
(1)「ものづくり」は何と訳するか?
(2) 「ものづくりのDNA」は、比喩として成り立つか?
(3) 「DNAを育てる」は?
(1) まさか直訳でMaking thingsともできない。やっぱり製造とか生産とかを表す言葉だろう。ProductionとManufacturingでは、後者でしょうね。
「ものづくり」は日本独自だぞと外人を脅かすには、Monozukuriとしてしまう手もありだ。
東京大学21世紀COEものづくり経営研究センター
Manufacturing Management Research Center (MMRC)
国立科学博物館ものづくり展
MONOZUKURI EXHIBITION
(2) DNAって何だ?
NHKなら日本、放送、協会の頭文字だ(「日放協」とすべきだと思う)。DNAは辞書では
DNA=Deoxyribonucleic Acid デオキシリボ核酸
だって。知ってました? 遺伝子とどう違うか? 広辞苑
【遺伝子】(gene) 生物の個々の遺伝形質を発現させるもとになるもの。その実体はデオキシリボ核酸(DNA)、一部のウイルスではリボ核酸(RNA)の分子であり、染色体上の一定の区画で、生殖細胞を通じて親から子へ遺伝情報を伝える。細胞内で蛋白質やリボ核酸の一次構造を指令し、形質発現の機構に関与する。
「遺伝子」の実体がDNAだったのだ。
「ものづくりの遺伝子」と書いてみると、たちまちインチキがばれる。
日本人の男の大部分が身長2メートル以下なのは、遺伝子またはDNAのせいである。「身長2メートルの男になる遺伝子/DNA」がないからだ。
日本人が「ものづくり」が得意だとして、それは遺伝子/DNAのおかげか?
トヨタのレクサスはメルセデスより品質が優れているらしい。これは日本が世界に誇る「ものづくり」の伝統(たとえば左甚五郎以来)だ! 日光東照宮の眠り猫を見ろ! なんて威張るのは結構だけれど、遺伝子/DNAを持ち出すのは変でしょう。
企業名(リクルートが一番多い)のDNAというのも相当ある。そんなものはあり得ませんよ。比喩としても成り立たないのだ。
(3)DNAを育てる?
遺伝子/DNAは「定義によって」育てることができないものです。――これで終わりなのだけれど、分からない人がいて困る。
一体あんたはDNAというものを大根か人参とでも思っているのか? 水と肥料をやれば育つと思っているのか?
「DNAを育てる」の例
・ 親のしごとは「DNAを育てる」こと
・やっぱり環境もDNAを育てる要因のひとつと感じますね。
・イチロー選手のように進化し続けるDNAを育てる。
・自分のDNAには自分が責任を持ち、自分のDNAを育てるのでなければ、教育現場は崩壊すると考えております。
・心のDNAを育てるためには想像力を鍛える必要がある。 一日5分間でもいいので何か一つ自分で物事を想像する訓練を身につける。 そうすることによって心のDNAが育ち幸せになるというものである。
まだいくらでもある。
えーい、馬鹿者共め、死ね、死ね、死んでしまえ!
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コメント
爆笑させていただきました。
たしかに、誰も彼もが何かにつけてDNAと言い過ぎですね。
「DNAを育てる」・・・・・・好意的に考えれば、日本人のDNAにあらかじめ刻み込まれたものづくりの才能を発揮させるとでも言いたいのでしょうか。
ああ、「生物は遺伝子の乗り物」といった説の悪影響かもしれませんね。DNAこそが生命の本質であり、それを成長させるべきだと考えているのかも。
投稿: 深沢明人 | 2007年7月24日 (火) 23時57分
コメント、どうも。翻訳奇譚ならまだたくさんあるのですが、あまり書くとお客さんを失うので。
投稿: 三十郎 | 2007年7月25日 (水) 14時49分
楽しく拝読しました。私も「比喩としてのDNA」を目障りに
感じていたので、スカっとしました。
今年新設された観光庁という役所の初代の長官になったひとが、
「DNAうんぬん」言うのが好きなようです。アタマが痛い・・・
投稿: autremondevert | 2008年12月23日 (火) 08時01分
その人はきっと馬鹿のDNAがあるのでしょうね。
投稿: 三十郎 | 2008年12月24日 (水) 22時30分