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2007年8月14日 (火)

シャーロック・ホームズの性格(1)(2)

[シャーロック・ホームズの性格(1)再録] 

Holmes2

 シャーロック・ホームズの性格を研究する人がとかく陥りやすい誘惑は、むやみに新奇なものを求めることである。聖パウロの時代のアテネ人のように、ホームズ・ファンは新しいものを欲しがる。斬新な憶測、斬新な結論はむろん魅力的である。しかし、ともかく珍奇ならば何でもよいというのでは、学問の健全な進歩は期待できない。況やホームズ自身の原理と方法に合致しないことは言を俟たないのである。ホームズは繰り返し「データ」の重要性を強調し、当て推量ではなく推理を勧めたではないか。
 ホームズの家系についてはすでによく知られているように、祖母はフランス人であった。先祖は代々の地主で典型的な紳士の暮らしをしていた。17世紀と18世紀のワイト島の総督にホームズが一人ずついるが、これが彼の一族だったかどうかは分からない。同様に子供のときの教育についても、知られていることはほとんどない。兄のマイクロフトについては、外務省で特殊な枢要の地位に辿りつくには、60年前にはパブリックスクールと大学での贅沢な教育が不可欠だったことは想像に難くない。シャーロックについては、パブリックスクールの生活には気質的に適しなかったので幼時から自宅で教育されたか、学校へは短期間行っただけであとは家庭教師の手に委ねられたと推測してよかろう。彼の運動も、パブリックスクールよりは田舎の邸宅が背景としてふさわしい。団体競技には無知なのは周知の通りである。得意なのは家庭で学べるスポーツだった。家庭教師か、あるいはフランス人の親戚が、フェンシングを教えたのだろう。ときには父親に連れられて猟に行くこともあったはずだ。ボクシングの基本は、村の子供達と手合わせして覚えたに違いない。[ここまで再録」

Sherlock

 ヴェルネの影響については、ホームズ自身がはっきりと述べている。自分は芸術家の血を引いていると。ホームズは絵は描かなかったが、音楽を熱愛し、極めて有能な俳優だった。彼は常に「芸術のための芸術」を標榜していた。といってもイエローブック*の流儀ではなく、高遠な理想主義からであった。

 芸術のために芸術を愛する者は、ごく些細なつまらぬものに芸術が示現する場合に、しばしば最も強烈な喜びを得るのだ。……僕が自分の芸術に正当な扱いを要求するのは、それが個人を越えたものだからだ。僕一人のものではないからだ。

 ホームズが若いころには地主階級とパブリックスクールの因襲に反逆したのは当然だろう。しかし、すでに見たように、ワトソンが初めのころの印象を、ともかく型破りの男だ――放縦で、愛だの恋だのは鼻であしらい、文学には無知、政治や哲学には無関心――と記録したのは、少々早まったのであって、必ずしも正しくはなかった。ホームズの女性関係は別に論ずるとして、ここでは政治について見ておこう。
 言うまでもなく、政治的意見の対立とか政党間の確執などには、ホームズは無関心だった。しかし、現在ならば国際政治とでも呼ぶべき領域について、幅広い自由な物の見方をしていたことは確かだ。

 はるか昔に王様が馬鹿なことをした。大臣がへまをやった。だからといって、我々の子孫がいつの日か一つの世界大国の市民にならないとは言えない。そのとき、国旗にはユニオンジャックと星条旗を四分の一ずつ*使うことになるだろう――私もこう信ずる者の一人です。

*イエローブック(1894-97) 《Aubrey Beardsley, Max Beerbohm, Henry James たちが寄稿した英国の季刊文芸誌》――リーダーズ英和辞典

Yellow3

*四分の一ずつ ……a flag which shall be a quartering of the Union Jack with the Stars and Stripes.

動詞のquarter は、リーダーズ英和辞典によれば紋章学の用語として次のような意味があるらしい。

【紋】 〈盾を〉《縦線と横線で》四分する; 〈紋章を〉盾の四分区に配置する; 〈他の紋を〉自家の紋に加える; 〈紋章を〉他と対角線上の位置に配置する

 ホームズの考えている新しい国旗は、四分の一の部分にユニオンジャックを置き、対角線上の四分の一に星条旗を配置し、あと二つの四分区にはまた別の模様を置くというものらしい。なんだかごちゃごちゃしていますね。
 翻訳は「ユニオンジャックと星条旗を組み合わせた旗」くらいに簡単に済ませてしまっても差し支えないと思います。

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