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2007年8月 1日 (水)

ラッセル自伝の誤訳(2)

Russel

 メアリー女王の両親が主催したある園遊会で、ケンブリッジ公爵夫人がかん高い声でこう言った- 

バートランド・ラッセルのお母さんがこの「園遊会」に出たのは、1872年のラッセル誕生より前かも知れない。しかし、ヴィクトリア女王(在位1837-1901)の治世だったのは間違いない。シャーロック・ホームズのような偏屈男でもVictoria Reginaの頭文字VRで壁を飾ったくらいの時代である。
 そうすると直ちに「メアリー女王って誰だ?」という疑問が生まれるはずだ。

At a garden-party given by the parents of Queen Mary, Duchess of Cambridge remarked in a loud voice:

 たしかにQueen Maryと書いてあるけれども、「メアリー女王」ではありません。
 Queenには2種類ある。Queen regnantとQueen consortである。「統治するクィーン」と「配偶者たるクィーン」である。女王王妃ですね。
 現在のエリザベス女王や昔のヴィクトリア女王はQueen regnantである。古くはクレオパトラなどがQueen regnantだった。

Accleopatra

 エリザベス女王が崩御されて、息子のチャールズさんが即位されるとKing Charlesになる。しかし現夫人のカミラさんはどうやらQueen Camillaにはならないらしい。
 仮にダイアナさんが離婚しないでチャールズ夫人のままなら、チャールズの即位と同時にQueen Dianaができていたはずだ。これはもちろん「ダイアナ女王」ではなく「ダイアナ王妃」ですね。

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 ラッセルがQueen Maryと書いているのはMary of Teck (1867-1953)のことでしょう。この人は英王室の親戚筋に当たるWurttemberg家の血筋(ただし英国に住む英国人)である。Wurttembergというのは11世紀に始まるドイツの王国である。現在の英王室は、元をたどればもちろんドイツ人である。1714年にスチュアート朝が断絶したので、ドイツのハノーバーの殿様ゲオルグという人を呼んでジョージ1世になってもらったのである。
   西洋では、日本ではちょっと考えられないことをするのですね。

 ラッセルの自伝で触れているこのメアリーは、ヴィクトリア女王の孫のジョージ5世(在位1910-36)と結婚してQueen Maryになった。この園遊会の時点ではまだメアリー王妃でない(生まれていないかも知れない)ので、その両親も単にナントカ公爵夫妻と呼ばれていたはずである。

  英国史上Queen Maryと呼ばれた人は何人もいる。「女王」として一番古いのはメアリー1世(1516-58)である。
 この人は例のヘンリー8世(1491-1547)の娘だった。ヘンリー8世は何度も奥さんを取り替えたので有名な人だ。結婚をめぐってローマ教会と喧嘩し、1534年に英国教会を独立させた。跡継ぎはエドワード王であったが、この王様が1553年に死ぬと、敬虔なカトリックだった異母姉のメアリーが王位についた。1554年、スペインのフェリペ2世と結婚し、二人でイギリスとスペインを共同統治するという形になった。この結婚がはなはだ不評だったので、プロテスタント弾圧に乗り出し、300人ほどを処刑して「ブラッディ・メアリー」のあだ名がついた。

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 1558年、メアリー女王が死去すると、ロンドン塔に幽閉されていた異母妹のエリザベス1世が即位した。この人の治世は1603年まで続いた。1588年にはアルマダの海戦でスペインの無敵艦隊を破り、英国が以後ヨーロッパに覇権をとなえることになった。

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 だいぶ話が逸れたが、要するに「メアリー女王」などはとんでもない誤訳だということだ。語学以前、常識の問題だ。気がついて指摘する人がいないのがおかしい。
 あと3点の間違いはまた今度。
  

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