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2007年9月26日 (水)

手に手を取って(2)

 ホームズとワトソンはhand in handで歩いたことはないようだけれど、arm in armならばあります。
 これは何という作品でしょうか? 

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「夕方になって風が出てきたようだ。どうだい、少し街をぶらついてみないか?」とホームズが言った。
 私は狭い居間にもうんざりしていたので、喜んで賛成した。それから3時間ばかり、フリート街からストランド通りへかけて繰り広げられる変幻きわまりない人生の万華鏡を眺めながら、二人でゆっくり散歩した。……ベーカー街に戻ったときは十時になっていた。戸口に四輪馬車がとまっている。

 この馬車で来たのがパーシー・トレヴェリアンという医者で、『入院患者』の事件が始まるのだった。
 この事件は1886年に起きた。発表はストランドマガジンの1893年8月号である。19世紀末のロンドンでは、男同士腕を組んで歩いてもおかしくはなかったらしい。21世紀の今だと、やはりちょっと変でしょう。

 もう1箇所、ホームズとワトソンが腕を組むシーンがあります。

 濃い煙が室内に渦巻いて、もくもくと窓から出てきた。中では人々が右往左往しているようだ。すぐにホームズの声がして、いまのは誤報だ、火事ではないと言うのが聞こえた。わめき騒ぐ群衆の間を抜けて、私は交差点まで立ち退いた。十分後、ホームズが腕を絡ませてきたので、ほっとして騒ぎの現場から立ち去ったのだった。

 もちろん『ボヘミアの醜聞』ですね。
「腕を絡ませてきた」の箇所、原文は……was rejoiced to find my friend’s arm in mine,

 ホームズとワトソンはよく二人でロンドンの街を歩くのだけれど、たいていarm in armで、腕を組んで、歩いたのじゃなかろうか?
 少なくとも、19世紀のイギリスでは、男同士が腕を組んで歩くのは、そんなに変なことではなかったみたいだ。
 イギリスだけではない。フランスでも同じらしい。男二人で街を散歩するという点ではシャーロック・ホームズのお手本みたいな小説がありましたね。

……と、やがてついに、真実の夜の到来を告げる、鐘が鳴る。と、今度は、僕たち、手を携えて、夜の街へ出るのだ。昼間の話の続きをすることもあれば、夜おそくまで、ただ当途もなく、夜歩きする場合もあるが、ともかくそんな風にして、僕たちは、あの大都会の奇怪な光と影の中に、ただ静かな観察が与えてくれる、無限の精神的興奮を、求めているのだった。

……until warned by the clock of the advent of the true Darkness. Then we sallied forth into the streets arm in arm, continuing the topics of the day, or roaming far and wide until a late hour, seeking, amid the wild lights and shadows of the populous city, that infinity of mental excitement which quiet observation can afford.

もちろん『モルグ街の殺人事件』です。arm in armで夜のパリを散歩するのは、オーギュスト・デュパンと語り手の「僕」である。岩波文庫の中野好夫訳。

 中野先生はarm in armの扱いに困ったらしい。ふつうに「腕を組んで」としないで、「手を携えて」とちょっと「抽象的」な書き方をしている。どういう動作なのか、わざと分かりにくく書いているのだ。
 しかし、ここは直訳で「腕を組んで」と訳しておけばよかった。これは「18XX年の春から夏にかけて、パリ滞在中」に起きた事件ということになっている。アメリカで発表されたのが1841年だから、それよりも前のことだろう。
「昔のフランスでは男同士腕を組むのはよくあることだった(と当時のアメリカ人は思っていた)」と考えておけばよろしい。日本人から見ると、あるいは現代のフランス人やアメリカ人から見ると、いかにも奇妙な習慣である。しかし、習慣というのはすぐに変わるものなのだ。

 腕を組むどころか、男同士で接吻する習慣も、ごく最近まであったのを覚えていますか?

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 同志レオニード・ブレジネフ(1907-1982)と同志エーリッヒ・ホーネッカー(1912-1994)の熱い接吻です。
 万国の労働者、団結せよ!

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