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2008年3月 7日 (金)

ホームズとワトソンの拳銃(1)

 ワトスン君、こいつは怠けてなんかいられないよ。ことに僕らが事件に関係したことをあの老人が知ってしまったんだからね。用意がよければ、すぐウォータールー駅までタクシー馬車をとばそう。ポケットにピストルを忍ばせていってくれるとありがたいな。鋼の火掻棒を飴のように曲げてみせる男にゃ、イリーの二号ピストルくらいはないと話になるまいよ。ピストルと歯ブラシだけ用意していけば、たいてい間に合うだろう。
(『まだらの紐』延原謙訳)

 まだらの紐は、ベアリング=グールドの考証によれば、1883年4月の事件である。
 しかし、ここで注目したいのは「イリーの二号ピストル」だ。そういうピストルがあったのか? 
 原文はこうだ。

An Eley’s No. 2 is an excellent argument with gentlemen who can twist steel pokers into knots.

 新しい訳ではどうか? 光文社文庫の日暮雅通訳

鉄の火掻き棒を簡単にねじ曲げるような男が相手なんだから、イリー二号ピストルの方が話をつけやすい。

 まずEleyは、「イーリー」と発音します。有名なホームズ役者のバジル・ラスボーンもそう読んでいる。

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 しかし、一号でも二号でも、「イーリー」という名前を冠したピストルはありません。
 Eleyという会社は拳銃は製造していない。弾薬ammunitionsを製造する会社として19世紀から有名なのだ。今でも盛んに営業しています。
http://www.eley.co.uk/

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 下の写真では薬莢のお尻にはっきりEleyのマークが見える。

375eley

 
「イーリーの二番」というのは、どうやら弾薬を指すらしい。では

 An Eley’s No. 2 is an excellent argument---

は、「イーリーの二番を一発撃ち込んでやれば----」ということになるのか? 
 しかし、これはホームズの言葉としては乱暴すぎるだろう。ホームズとワトソンが人間を撃ったのは、『四人の署名』のトンガ(アンダマン島の怪人)の場合だけである。あれは真にやむを得ず撃ったのだった。(どちらの弾が当たったのだろう?)

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 ガリデブの事件で「殺し屋のエヴァンズ」を相手にしたときでも、ずいぶん危ない目にあったのに、ホームズは撃たなかった。
 ここは、「イーリーの2番の弾を撃つ拳銃」という意味でしょうね。現代でも、たとえば「357マグナム」は弾薬の名前であるけれど、その弾薬を撃つリボルバーを指してこういうことがある。この箇所の訳は単に「イーリーの二番」としておけばよろしい。
 どういう拳銃だったか? ワトソンがどんな拳銃を持っていたかは、ほかの冒険を見なければ分からない。(続く)

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