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2008年5月31日 (土)

柔道か柔術か(22)

 レスリングは古代ギリシャで行われたスポーツだ。
 ソクラテスもプラトンもアリストテレスもレスラーだった。プラトンはかなり強かったらしい。そもそも彼の名前は「肩幅の広いやつ」という意味のあだ名なんだそうです。
 彼らはどんなレスリングをしたか? グレコローマンスタイルですね。自分の下半身を使ってはならず、相手の下半身を掴んではならない。
 なぜ、そんな不自然なスタイルで戦ったか? 理由は明らかでしょう。

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 この絵では一本背負いをかけている。しかし内股なんかは危険である。フリースタイルにある「股裂き」なんぞは、おぞましい。
 やがて時代も進歩してパンツが発明されたけれども、レスリングは変わらなかった。ヨーロッパ大陸では相変わらずグレコローマンスタイルで戦っていた。
 イギリスでは、どこを掴んでもよろしい(キャッチ・アズ・キャッチ・キャン)というスタイルが発生した。
 このスタイルのレスリングは、あるいは18世紀からあったかも知れない。しかし、蒸気機関が発明された18世紀に「隆盛した」なんてことはあり得ない。19世紀でもまだ駄目でしょう。そんな余裕はなかったはずだ。
 ウィキペディアの記事は空想である。
 エンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』(1844)を読めば分かるはずです。悲惨だったのだ。

 ヴィクトリア朝も末期になると労働者階級にもいくらか余裕ができて、ミュージックホールに行って楽しむなんてことも始まったようだ。20世紀になるとかなり盛んになった。
 そのミュージックホールでやるようなプロのレスリングをもとにしてアマチュアレスリングを作るときに、「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」という舌をかみそうな名前の代わりに「フリースタイル」と呼ぶことにしたのだ。
 プロレスリングからアマチュアレスリングを作ったのであって、その逆ではありません。
 アマレスで実績をあげてプロレスに転向するという道筋が現在あるからといって、昔からそうだったとは限らない。アマチュアスポーツというのはごく最近に発見されたものだ。この辺の事情は、柄谷行人『西洋近代スポーツの起源』を読んで下さい。

 一つだけほかのスポーツの例を見ておこう。

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 1924年のパリ五輪。フランス代表のミドル級選手、シャルル・リグローが片手スナッチで87.5kgを挙げたところ。彼は金メダルを取った。片手スナッチなんて、やってみれば分かるけれど、ずいぶんむつかしい。左右不均衡な筋肉の発達を助長して体によくない。なぜ無理にこういう挙げ方をしたか? 
 重量挙げ競技のルーツは、職業的怪力芸だからだ。ユージン・サンドウ(コナン・ドイルとボディビル参照)のような職業的力持ちが派手でお客に受ける片手技をやったからです。そういうのを見て、素人が自分もやってみようというので、重量挙げ競技が始まった。現在の重量挙げは、両手によるスナッチとクリーンアンドジャークの2種目です。

 レスリングでも同じことだ。初めにプロレスがあった。プロレスに二種類があった。ヨーロッパ大陸はグレコローマンで、英国はキャッチ・アズ・キャッチ・キャン=フリースタイルだった。プロレスからアマレスができた。(続く)

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