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2008年7月 6日 (日)

コナン・ドイル卿? (3)

 ドイルの功績に対してナイトの位が授けられることになった。

1899年10月   ボーア戦争勃発。ドイル志願。
1900年4月   野戦病院監督として南アフリカに赴く。
1901年1月   ヴィクトリア女王崩御。エドワード7世即位。
1901年8月   『バスカヴィル家の犬』連載を始める。
1902年1月   『南アフリカの戦争――その原因と経過』出版
      5月    ボーア戦争終結
      8月    エドワード7世戴冠式

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 コナン・ドイルは、1902年8月の戴冠式の機会にナイトの位を授けられることになった。

「8月9日、戴冠式の当日を告げる鐘の音がひびきわたったとき、コナン・ドイルは、同時にナイトに叙せられるオリヴァ・ロッジ教授とともに、バッキンガム宮殿の檻のなかへつれこまれた。絹衣装の盛装をこらして美々しく飾りたてた人びとのまんなかで、この二人は心霊学の問題の討議に熱中し、そこへ出かけてきた目的すら忘れてしまうありさまだった。そして、ほどなく彼は日光のなかへ、まだいくらか反抗的な気分で、アーサー・コナン・ドイル卿となって出現したのであった。」
(ジョン・ディクスン・カー『コナン・ドイル』大久保康雄訳 早川書房版p.304)

 ようやく本題です。
 彼はSir Arthur Conan Doyleとなった。これを大久保康雄氏は「アーサー・コナン・ドイル卿」と書いているが、これでよろしいのか?

 よろしくない。ナイトの位をもらったドイルのことを、「アーサー・コナン・ドイル卿」「コナン・ドイル卿」「ドイル卿」「アーサー卿」と呼ぶのは、いずれも不適切である。
 間違いだ――とまでは言い切れないのがむつかしいところだ。
 Sirの称号は、「日本にないもの」だからだ。

「日本にないもの」とは何か?
 英語の初歩の授業では、先生がたとえばbookと発音の模範を示し、生徒がその後について一斉にbookととなえますね。
 明治時代、英語教育が始まったばかりのころは、少々方式が違った。
先生「book 本」 生徒「book  本
 というふうに、先生が単語の発音と意味をとなえ、生徒たちが復唱した。
notebook  帳面」 「notebook  帳面
pencil 鉛筆」 「pencil 鉛筆
knife  包丁」 「knife  包丁
という具合である。発音より意味に重点を置いた。発音は先生も不確かなことが多かった。knifeはクニフェと読んだかも知れない。読み方はどうでもよく、意味の方が大切だったのだ。
 しかし先生にも意味が分からない単語が出てくることがあった。そういうときは
butter  日本にないもの」 
cheese   日本にないもの
 とするしかなかった。バターやチーズがどういうものか、見なくては分からない。
   Cheese and butter are made from milk.
  日本にないもの日本にないものは牛乳から作る。

 Sirはいまだに「日本にないもの」である。baronならば「男爵」でなくてはだめで、「伯爵」とすれば間違いである。
 Sirは「日本にないもの」なのだから、どう訳せば間違いとは言えない。
 しかし、ほかの位や称号との釣り合いを考えると
 Sir Arthur Conan Doyleは
「サー・アーサー・コナン・ドイル」と言うべきだ。
「アーサー・コナン・ドイル卿」はいけない。

 英語では
 Sir Arthur Conan Doyleまたは単にSir Arthurと言うが、
 *Sir Conan Doyle や*Sir Doyleは言わない。
 日本語で「コナン・ドイル卿」「ドイル卿」はいけない。「アーサー卿」もだめ。
 大久保康雄氏が「アーサー・コナン・ドイル卿」と書いているし、延原謙氏は『バスカヴィル家の犬』で「チャールズ卿」「ヘンリー卿」と書いているので、翻訳家の皆さんがいまだに真似をしている。
 しかし、もうやめましょう。「サー・アーサー・コナン・ドイル」「サー・チャールズ」「サー・ヘンリー」の方式に統一することを提案したい。
 もう少し説明が必要かも知れない。

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