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2008年9月17日 (水)

独身貴族のモデル(1)

 独身貴族、セントサイモン卿の結婚にまつわる奇っ怪な事件がホームズのところに持ち込まれたのは、ワトソン自身が結婚する数週間前のことだった。ワトソンはまだベーカー街にいたから、モーニングポスト紙の消息欄をホームズに読んで聞かせることができた。

Nobl21

 バルモーラル公爵家次男、ロバート・セントサイモン卿とカリフォルニア州サンフランシスコ市のアロイシャス・ドーラン氏の一人娘ハティ・ドーラン嬢との縁談は首尾よくまとまり、近く華燭の典を挙げられる由。

A marriage has been arranged and will, if rumour is correct, very shortly take place, between Lord Robert St. Simon, second son of the Duke of Balmoral, and Miss Hatty Doran, the only daughter of Aloysius Doran, Esq., of San Francisco, Cal., U. S. A.

 原文を見ると、46歳の独身貴族と若いアメリカ女性の結婚は、見合い結婚arranged marriageだったことが分かる。ワトソンの結婚は純然たる恋愛結婚だった。ホームズも一度婚約したことがある。何という事件の時でしたか?
 チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンのメイドと婚約したのだった。結局は婚約不履行を決めこむのだけれど、仮に結婚したとすればやはり恋愛結婚である。
 ワトソンは中流階級である。ホームズはエスコットという名前の鉛管工に化けたのだったが、これはまず下層階級でしょう。中流以下の者は「くっつき合い」で結婚してもよろしいけれど、公爵家と大富豪のような上流階級となるとそうは行かない。もちろん、見合いも英国と日本ではだいぶ事情が違う。たとえば仲人という制度は英国にはなかったようだ。
 セントサイモン卿はサンフランシスコではじめてハティ・ドーラン嬢に会い、社交シーズンになって父親に連れられてロンドンに来た彼女に再会した。何度か会ってから婚約したのだ。
 モーニングポスト紙がA marriage has been arranged(縁談がまとまった)という書き方をしているのは、もちろん、公爵家とドーラン家の間に持参金の額などをめぐってシビアな交渉があったことを暗示している。この辺の事情を別の新聞は、こう書いている。

 結婚市場における現下の自由貿易主義は国産品に甚だ不利であり、遠からず保護政策の必要が叫ばれるであろう。大英帝国の名家の支配権は大西洋の向こうから来る美しき従姉妹たちの手に次々とわたりつつある。先週も美しき侵入者の一人が見事金的を射止め、最近のかかる傾向にきわだった一例を加えた。二十年来頑としてキューピッドの矢を寄せ付けなかったセントサイモン卿が、カリフォルニアの百万長者令嬢ミス・ハティ・ドーランと近く結婚することが、このたび正式に発表されたのである。ウェストベリー・ハウスの祝宴においてその秀麗なる容姿で衆目を集めたドーラン嬢は、大富豪の一粒種であり、持参金は優に六桁を越え、将来はさらに莫大な遺産を相続するものと見られている。一方、バルモラル公爵が数年来所蔵の絵画をやむなく売却しつつあることは公然の秘密であり、セントサイモン卿もバーチムアの広からぬ領地のほかには自身の財産を持たぬ身であるから、今回の結婚によってカリフォルニアの女相続人が、共和国の一女性からかくも容易に英国貴族の一員となるとしても、彼女のみが利益を受けるわけではないことは明らかであろう。

 この記事をよく読んでみると、このような、英国貴族の男子と米国の富豪の子女の縁組みが珍しくなかったことが分かる。
 こういう組み合わせには、gilded prostitution(金メッキの売春)というひどい呼び方があったくらいなのだ。

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