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2008年9月25日 (木)

シャーロック・ホームズの来日(1)

 ここは丸の内の帝国ホテル、その十五号室に、三週間前ほどから滞在している一人の英国人があった、――ウィリアム・ペンドルトンと名乗る紳士で、180センチを越す痩せた長身、目の鋭い蒼白めた顔つき、左足を少し引き摺るのが癖だ。
 九時が鳴ってまもなく、ペンドルトンが朝の珈琲を啜っていると、給仕がやって来て一枚の名刺を差出した。
「このお方が御面会でございます」
「朝の面会は困るが……」
「是非にと仰有いますので」
 ペンドルトンは迷惑そうに名刺を受け取った。見ると――「警視庁刑事課長 村田俊一」と認めてある。
「……如何致しましょう?」
「さあ、まだ起きたばかりで取り散らしているが、宜しかったら、此室でお眼にかかるからとそう云って下さい」
「かしこまりました」
 給仕が去ると、待つ程もなく正服の村田刑事課長が足早に入って来た。――ペンドルトンは静かに椅子から立ち上がった。
「どうぞ此方へ、私がペンドルトンです」
「村田です、こんなに早くお騒がせ致しまして申訳ありません。実は至急あなたの御助力を願いたい事が出来ましたので」
「ほう、私に助力を――と仰有ると?」
「非常に奇怪な殺人事件が起こったのです、シャーロック・ホームズさん」
「何ですって?」
 ペンドルトンはきらりと眼を光らせた。――刑事課長はにっこり笑って
「いや、もうお隠しになるには及びません、貴方がホームズ氏であることは、三週間前に横浜へ御上陸なさった時から私の方には分かっていたのです」
「や……こいつはどうも」
 ペンドルトン、否……シャーロック・ホームズは、一本参ったと云う風に体を揺すぶって苦笑した。
 ああ、英国の名探偵、と云うよりも世界的の大探偵として誰知らぬ者なきシャーロック・ホームズが、意外にもはるばると海を渡ってわが日本へ来ていたのだ。何のために……? それはこの一篇の物語の進むにつれて次第に分かって来よう。

Sherlock_01

 あの名探偵シャーロック・ホームズが、はるばると海を渡ってわが日本へ来ていたとは!
 この『シャーロック・ホームズ』は、博文館の少年雑誌『新少年』の1935年12月号の別冊附録に一挙掲載された長篇である。コナン・ドイル原作、山本周五郎訳述となっている。(末國善己氏の解説による)

 ホームズが本当に日本に来たのだろうか? 来日はいつのことだったのか? 1935年は昭和10年であるが、この年に来たとは限らない。
 シャーロック・ホームズは1854年1月6日生まれなので、1935年には81歳だ。1925年(大正14年)には71歳である。来日は第一次世界大戦が終わった1918年(大正7年)からあとの大正年間であったと考えるのが自然でしょう。

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