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2008年11月13日 (木)

シャーロック・ホームズ学の課題と展望(2)

シャーロック・ホームズ学の研究は、まだまだ英米の方が進んでいるので、研究史上の古典の翻訳も大切な課題である。
 この面では、私もささやかながら学問に貢献している。ホームズの言葉を借りれば、I have contributed to the literature of the subject.
 ロナルド・ノックスの本職は学者兼カトリックの神父であったが、探偵小説作家としても有名である。

トスカ枢機卿の死』の原稿断片を発掘したS・C・ロバーツも学者であった。

 ドロシー・セイヤーズのようなプロの探偵小説作家がホームズ研究の面でも業績を上げているのは不思議ではない。私はこの人の『ドクター・ワトソンのクリスチャンネーム』は訳出したけれども、『シャーロック・ホームズの学生時代』は途中で不明な点が出て訳を中断している。どなたか、ご教示下さい。(→「シャーロック・ホームズ」のカテゴリ。以下同じ)

『ワトソンは女だった』というトンデモ説をとなえたのは、レックス・スタウトである。これは多くの真面目な研究者を憤激させ、スタウトはベーカーストリート・イレギュラーズの会合に、ボディガード付きでなければ出席できなくなったという。翻訳はかなり前に出ているはず。しかし、あまりおふざけが過ぎて感心できない。それよりも、この人が他の二人の研究者とともにラジオの座談会に出てホームズを論じた記録があるので、機会があれば紹介したい。

 作家であっても探偵小説に関してはファンにとどまっている人たちにも、ホームズ論の古典がある。
 一番の大物は、『荒地』のT・S・エリオットでしょう。この人はホームズの大ファンだった。劇団四季の『キャッツ』の原作にモリアーティ教授をモデルにした悪い猫が出てくる。『寺院の殺人』は『マスグレーブ家の儀式』から台詞を借りている(このことを指摘したのは、水野雅士氏『シャーロック・ホームズと99人の賢者』が最初だと思う)。 (→T・S・エリオットのホームズ論

『アクセルの城』のエドマンド・ウィルソン、メディア論のマクルーハン、詩人のケネス・レックロスグレアム・グリーンなどにもホームズ論がある。これらはこのブログで訳しています。
 
 しかし、英米人の研究ならば全部正しい、有り難がって翻訳し吸収すべきかというと、もちろん、そんなことはない。間違いはあります。
 日本人ならば漱石でも鴎外でも露伴でもちゃんと読めるか? むつかしいでしょう。同じように、英米人がシャーロック・ホームズを正しく読めるとは限らない。たとえばgasogeneなんて単語は、ふつうの英米人は知らないだろう。聞いたことはあっても、実物を見たことはないだろう。
 
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  こういうのはちょっと調べれば分かることだけれど、とんでもない誤解をしている場合がある。
 読み間違い(日本人にとっては誤訳になるわけだ)は多い。まず正確に読むということが、何といっても学問研究の出発点である。(続く) 

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コメント

  こんにちは。TRick-StaRと申します。私もシャーロックホームズの大ファンで、一時期現実と虚構を入れ違えるほど、ホームズ集にのめりこんでいました。まだ本格的に学問として取り組んではいないですが、いくつかパロデーを読んだことがあります。もちろんその内容は、著者の考えるホームズ像或はワトソン像に大きく左右される訳ですが、個人的に見て、正典に限りなく忠実なものから、かけ離れた空想が散りばめられたものまで様々でした。
  私は、正統派を重んずるので、コナンドイルの描いた世界や設定から大きくずれてしまうものはあまり好きではないです、例えば、ホームズに妻がいたり、ホームズとワトソンの人間関係が映し出されていなかったり、ホームズがチベットに旅行してしまったり、です。ここに映し出されている人物像は、全く違うもののように思えて、ホームズの世界が立ち上がってこないのです。
  あなたがパロデーについてどうお考えかは、私と全く違うものであるかもしれません。ただ、私もこれから自己満足的にホームズを研究していきたいと考えている所存です。同じホームズに興味を抱くものとして、これからもcontactできれば、と思いました。

投稿: TRick-StaR | 2008年11月13日 (木) 12時40分

ホームズのパロディとしては、ニコラス・メイヤーの『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』(原題はSeven Percent Solution)がお勧めです。フロイトが出てくるのが趣向です。それはそれとして、ホームズの英語は書く英語のお手本になります。少しむつかし過ぎるという意見もあるだろうけれど。

投稿: 三十郎 | 2008年11月13日 (木) 16時20分

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