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2008年12月24日 (水)

柔道か柔術か(37)

ピンフォールかタッチフォールか

 pin-fallをOED (Oxford English Dictionary)で引いてみよう。

pin-fall  Wrestling, a fall in which a wrestler must hold an opponent down for a specified length of time

ピンフォール レスリング用語 レスラーが相手を一定時間押さえていなければならないフォール

 touch-fallはOEDに定義がない。しかし、ピンフォールの「一定時間」という要件を欠くフォールであることは分かるはずだ。
 ピンフォールは「ピンで刺すように押さえつけるフォール」であり、タッチフォールは「相手の両肩を同時にマットに接触させるフォール」である。
 現在のアマチュア・レスリングの規則では、相手の両肩を1秒間マットに押しつければフォールが成立するということになっている。ところがアマレスの試合を見ると

F5514

 レフリーは、ニアフォールの状態になると片手を上げ、両肩がマットに接触した瞬間に上げた手を下ろしてフォールを宣言している。接触が1秒間持続する必要はないようだ。

 OEDのpin-fallには、1907年と1976年の例文が上げられている。

1907 Daily Chron. 21 Dec. 9/5  These two…wrestlers having agreed to contest the best of three pin falls in the catch-as-catch-can style.

この二人のレスラーは、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイルでピンフォールを(3回のうち)2回取った方が勝ちということで戦うことに合意した。

1976 K. Bonfiglioli Something Nasty in Woodshed iv. 41  He helps the other chap back into the ring…then administers a fearsome forearm smash and the winning pinfall. 

彼は相手がリングに戻るのを助け…猛烈な前腕のスマッシュを浴びせてピンフォールで勝ちをおさめる。

 1907年のデイリー・クロニクル紙の記事は、真面目なキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの試合の記事らしい。プロレスか、アマレスか? たぶんプロだと思いますね。この時代にはまだアマレスはそれほど盛んではなかった。一方プロレスは、デイリー・クロニクルのような一般紙(イギリスの東京スポーツではなく)の記事になるくらいのステータスがあった――これは私の推定ですが、だいたい正しいだろうと思う。夏目漱石が1901年12月にキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイルの真面目なプロレスの試合を観戦し、その試合経過を翌日のデイリー・テレグラフ紙(漱石が取っていたのはこの新聞だった)が詳しく報じているのだもの。

 ところで、以前にcatch-as-catch-canの語はOEDの見出しにないと書いたけれども、これは間違い。載っていました。この点についてはまた。

 1976年の例文は、どうやら小説の一節らしい。明らかに今様のプロレスですね。現在形で書いてあるのは、「試合運びの筋書き」なのかも知れない。前腕のスマッシュforearm smashというのは、プロレス技としては「肘打ち」ですね。ただし、本当の肘打ちは危険すぎてK-1でも禁止されているくらいだから、代わりに前腕部で叩くのだ。

 ピンフォールの定義に戻ろう。相手を一定時間押さえていなければならないとして、その一定時間はどうやって測ったか? もちろん、ワン、ツー、スリーとカウントした。漱石は1901年に見た試合について

西洋の相撲なんて頗る間の抜けたものだよ。膝をついても横になっても逆立をしても両肩がピタリと土俵の上へついてしかも、一、二と行事が勘定する間このピタリの体度を保っていなければ負でないっていうんだから大に埒のあかない訳さ。

 と書いている。「一、二と行事が勘定する」というのは、ツーカウントという意味ではないだろう。

 100年ほど前の英国では、プロレスもアマレスもキャッチ・アズ・キャッチ・キャンであった。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンはピンフォールで勝負をつけた。ピンフォールは、現在のアマレスのように両肩を一瞬マットにつければよいのではなくて、スリーカウントする間(たぶん2秒くらい)持続的に押さえつけておくフォールである。
 たとえば、空手チョップの連打、バックドロップ、ボディスラムなどで相手を弱らせておくことができれば、ピンフォールも取りやすいだろう。

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 しかし、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン(≒フリースタイル)で戦う限り、アマでもプロでもピンフォールを得るのは容易なことではない。なかなか勝負がつかなくて、「西洋の相撲なんて頗る間の抜けたものだよ」ということになるのだ。

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