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2008年12月25日 (木)

柔道か柔術か(38)


 
 catch-as-catch-canはOED(Oxford English Dictionary)に定義がある。
  動詞catchを用いた語句として、ハイフンなしのcatch as catch canとハイフン付きの形が挙げられている。

catch that catch may, catch as catch can, etc.: phrases expressing laying hold of in any way, each as he can.

catch as catch canはcatch that catch mayと言っても同じ意味で、「掴めるように掴む」という意味を表す語句である。
 一番古い例文は1393年の

Gower Conf. III. 240  Was none in sight But cacche who that cacche might.

 これはミドルイングリッシュで綴りも現在とは違う。1949年の例文

R. Harvey Curtain Time 130  The production was usually a hurried, catch-as-catch-can affair. 
(上演はふつう急ぎの出たとこ勝負のものだった)

ハイフン付きの形は
catch-as-catch-can, the Lancashire style of wrestling.

 キャッチ・アズ・キャッチ・キャンとは、すなわちランカシャー式のレスリングであることが分かる。

 キャッチ・アズ・キャッチ・キャン=掴めるところを掴む

が基本の意味であり、レスリングでは、グレコローマンやカンバーランド・ウェストモーランド式のような制限がなく、自由に相手の体のどこでも掴んでよいレスリングである。
 1895年刊行の『スポーツ百科辞典』から例文二つ

The principal chips associated with catch as catch can wrestling are the double Nelson, the half Nelson, the heave [etc.].
(キャッチ・アズ・キャッチ・キャン・レスリングの主要な技は、ダブルネルソン、ハーフネルソン、ヒーブ(投げの一種)などである。)

Turkish wrestling is principally carried out in catch as catch can style.
(トルコのレスリングは主にキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイルで行われる。)

 catch-as-catch-canは、グレコローマンのような制限がないレスリングという意味だ。
 20世紀になって、さらに制限が少ないオールイン(all-in)式レスリングが現れた。これが興業として行われるようになったのが、現在のようなプロレスである。オールインとは「何でもあり」の意味であるが、もちろん本当に何でもありではない。目潰しなどの危険な行為は当然禁止である。格闘技戦で使うようなパンチやキックも禁止である。暗黙の了解に反するような行為も事故につながるから当然禁止である。

 OEDで見る限り、レスリング用語としての「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」は19世紀後半になって用いられるようになったもので、現在の「フリースタイル」とほぼ同じレスリングであった。

Bk1920allin

「オールイン」は、現在のプロレス式のレスリングであり、その意味でのall-inは1913年が初出である。

 all-inの定義としてOEDには
in Wrestling, without restrictions. (レスリングで制限がないこと)

とある。その意味で一番古い例文は1913年刊行のJ.E.G.Hadath作Schoolboy Gritという小説にある。

Showimg

A fight is just a fight: Catch-as-catch-can, All-in, and Best-your-enemy-anyhow!
(戦いは戦いだ。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンでも、オールインでも、「何でも勝てばよい」式でも。)

 1931年、E・J・ハリソンの『レスリング』から
Any aspirant for mat honours will not seek to explore and master the mysteries of All-in until he has gained a good working knowledge of orthodox Catch-as-Catch-Can.
(マットの上で栄誉を得んとする者は、オールインの神秘を探索し会得する前にまず正統的なキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの十分な実用的知識を得るべきだ。)

1944年、ジョージ・オーウェルがHorizonという雑誌に書いている。
To the extent that all-in wrestling is worse than boxing. 
(オールイン・レスリング(=プロレス)の方がボクシングよりひどい)

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