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2009年1月31日 (土)

柔道か柔術か(51)

 グーグルでscientific wrestlingを検索するとトップは
http://www.scientificwrestling.com/
 ここに

Dept19

 TMと書いてありますね。Scientific Wrestlingに商標権を主張したいらしい。ちょっと特殊な用法なのだろう。
 この写真では相手の両腕を制しているけれども、関節を極めているのではないと思う。ピンフォールを取るにはしっかり押さえつける必要があるからだろう。現在のアマレスのようにタッチフォールで一瞬だけ押さえればよいのならば、こういう念入りなやり方は不要だ。

 このサイトが有名なscientific wrestlersとして名前を挙げているのは、ジョシュ・バーネット、藤原喜明、カール・ゴッチ、ビル・ロビンソンなどである。

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 初めの方に、What is Scientific Wrestling? と書いてある。訳してみよう。

「サイエンティフィック・レスリング(別名キャッチ・アズ・キャッチ・キャン・レスリング)は、明確に米国および西欧のスタイルのグラップリングであり、そのルールでは勝者はサブミッションまたはピンによって決まる。ポイント制はなく、politics(プロレスの筋書きという意味だろう)もなく、試合は三本勝負で二本を先に取った方が勝ちになる。」

 どうもいい度胸をしているね。ふつうの英語の用法を完全に無視している。 それに、真剣勝負なのに三本勝負?
「青木真也の足関節技が見事に決まって一本目は取ったけれども、二本目になるとエディ・アルバレスのパウンドが……」なんて馬鹿な試合があるはずがないだろう。
 プロレスはキャッチ・アズ・キャッチ・キャン(サブミッションなしのレスリング)の伝統を受け継いで「六十一分三本勝負」だ。しかし、一本目はデストロイヤーの四の字固めが決まったが、二本目は力道山の空手チョップが冴え渡り――これではお客さんが納得しないよ。
 四の字固めは両者一本ずつフォールを取り合った後に出て、力道とデストロイヤーの両者はリング下に転落、そのまま無勝負、というのが定石でしょう。

Kao  
 しかし、続きをもう少し読んでみよう。

「嘉納治五郎が柔術から危険な技を省いて安全なスポーツとして柔道を創始したように、キャッチの危険なホールドとサブミッションが除かれ、人々が安全にレスリングに参加できるようになった。ここからアマチュアのフリースタイル・レスリングが生まれた。」

 これでは日本で従来言われていること、信じられていることと同じだ。
 日本語でも英語でもこの手の主張の特徴は漠然として具体性がないことだ。次の二つを比べてみよう。

(1)嘉納治五郎が柔術から危険な技を省いた。
(2) キャッチの危険なホールドとサブミッションが除かれた。

(1)については、天神真楊流と起倒流を学び、明治15年、東京下谷の永昌寺に講道館を開き……
 いくらでも具体的な細部を語ることができる。

(2)はどうか? 危険なホールドとサブミッションとは具体的に何々という技か? 除かれたのは何年のことか? サブミッション禁止は誰々が決めたのか? 一切不明である。こういう具体的な細部の記述は、どこでも見たことがない。
 いわゆる4W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どうしたか)が書いてない。『Gスピリッツ』誌の那嵯涼介氏の記事はよく資料を調べた労作であるが、やはりこの4W1Hを欠いている。
 
 GスピリッツVOL09の55頁には
…イギリス国内で柔術人気が高まることは、CACCスタイルにとって「危険で野蛮である」という理由から、試合では禁じ手とされていたサブミッションの解禁を行うよい契機になったのではないだろうか。「柔術、柔術と大騒ぎしているが、サブミッションなんて俺たちのスタイルにも昔からある技術なんだぜ」と。

  4W1Hはどうか?
・「解禁」は何年に、誰の提案で、どの試合から行われたか?
・「サブミッションは昔からある技術」→どういう名前のサブミッション技が、いつごろから、どこで、誰々に使われていたか?
――というような点に触れた資料がないから、書けないのだろう。
  言うまでもなく、資料が「存在しない」ことは証明できない。だから私は、「自分の見た限りの資料によれば、柔術起源の方がより本当らしい」という書き方をしている。

 那嵯氏のような真面目な記事と違って、このScientific Wrestlingというサイトについては「4W1Hを書け」などは無い物ねだりだろう。もう少し下までスクロールするとJOIN NOWと書いてあって、これをクリックするとクレジットカード情報入力欄が出てくる。
 これは科学的レスリングの通信教育のサイトらしい。色々な情報が多くて見るだけでも面白い。もう少し下まで見ると、こういうイラストもある。

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 これが関節技柔術起源の証拠だ、なんてことは言いませんよ。
 プロレス関係の記事では、とかく薄弱な根拠で断定的なことを言う人が多いのだ。
 このイラストは、たぶん1900年代に英国で出たレスリングの本にあったものだろう。上半身だけの技ばかりだから、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン(=フリースタイル)ではなくグレコローマンだ。ついでに近頃話題の柔術にも少し触れます、というのだと思う。
  次回は、タニ・ユキオについて更に具体的な情報を補います。

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