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2009年2月 6日 (金)

柔道か柔術か(55)

Westons
(ミュージックホールの光景。観客席にテーブルがあって酒食が出ている。)

 ミュージックホールのレスリングでタニと戦った数多くのレスラーの一人がHealth and Strength誌に手記を寄せている。ピーター・パーキーという仮名を用いているこの男は、あるとき街を歩いていて、タニ・ユキオが出演して誰の挑戦でも受けるというポスターを見た。パーキーは柔術とレスリングを練習したことがあり、自分のクラブでは一番強いと自負していた。タニと15分間戦って25ポンドを獲得できるかも知れない、いやひょっとしたら勝って100ポンドだってもらえるかも知れない。当時100ポンドと言えば大金で、1年分の給料に匹敵するくらいだった。

 ミュージックホールの入り口で1シリングの入場料を払って、色々な出し物の間、じりじりして待っていた。ドタバタ劇があり、きれいなネエちゃんのダンスがあり、アクロバットがあって、ようやくタニの出番である。まず助手を使って柔術の投げ技と固め技のデモンストレーションを行った。ところがピーター・パーキーは「そういうのは全部よく知っていた。ラクの本を読んでいたから」というのだ。これはもちろんウエニシ・サダカズ(ラクはリングネーム)の柔術本である。

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 そのあとで、地元では有名な大男のレスラーがタニに挑戦した。

「この荒武者はまなじりを決してタニと対峙した。ちっぽけなジャップは日出ずる国から来た男らしくニコニコしながら静かに地元の巨人に歩み寄った。たちまち巨人は派手な空中ダンスを始めて、観客を大いに楽しませた。やりたくてやったわけではない。日出ずる国の小男がダンスさせたのだ。ドシンと音を立てて倒れ、すぐ立ち上がると相手を捕まえにかかった。しばらく二人はワルツみたいに動き回ったが、すぐにまた地元巨人は倒れ、ジャップが上に乗っかって、どういう手を使ったか掴まえてしまい、どうあがいても相手は逃れられない。一度二度と無駄なあがきをしたが、押さえつけられてマット上で身動きできない。巨人が懸命にマットを叩いて参ったをいうと、ジャップは静かに顔の汗を拭いた」

 ピーター・パーキーは、自分ならもっとうまくやれると思ったから、ステージに上がった。柔術ジャケットを着て「この生意気なチビを見下ろした」。パーキーは日本人よりずっと背が高く体重も重かったから、これは楽勝だと思った。が、それは一瞬のことで、何度も何度も投げ飛ばされるはめになった。「私は全力を出した。しかしどうしても相手を掴まえられないのだった。掴んだと思ったら逃げられた」
 観客ががんばれと叫んでいるのが聞こえた。「まるで夢の国にいるみたいだった」。タイムキーパーが「三分経過」と叫んだ。マットから立ち上がると、タニは静かにほほえんで、パーキーがかかってくるのを待っている。

「突然、斬りつけるような足払いが来た。私はドシンと倒れた。懸命にもがいたがだめだ。ジャップは一瞬の間にあの有名なアームロックをかけてきた。こちらはマットに押さえつけられてどうにもならない。参ったをいう前は、実に変な気分だ。逃れたい、逃れようとするのだけれど、できない。万力みたいに締め付けられて、どうしたって外れっこない。潰され砕かれたみたいで実に情けない気分だった」

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