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2009年3月24日 (火)

プロの美人たち(4)

「職業的美人」とは何か。
 英国でprofessional beautyというフレーズが使われるようになったのは、1870年代の後半からだ。
 写真撮影が簡単になったためもあって、上流人士、特に女性の写真をショーウィンドウなどに飾るという奇妙な流行が始まった。
 正典にもホームズとワトソンがそういう写真を見に行くシーンがありました。
 
 われわれが目撃した悲劇について、ホームズは私には一言も語ろうとしなかったが、私はその朝中ずっと、彼がひどくもの思いに捉えられていることに気付いていて、そのうつろな目つきと上の空といった風情からして、必死に何かを思い出そうとしているところなのだという印象を受けていた。ちょうど昼食が半ばに差しかかった頃、突然ホームズが跳びあがったのである。「そうだよ、ワトソン! 分かったぞ!」と彼は叫んだ。「帽子をかぶるんだ! 一緒に来たまえ!」彼はベイカー街からオックスフォード街へ駆け抜け、もう少しでリージェント・サーカスという所にやって来た。左手のとある店にショーウィンドウがあって、当代の名士や美女たちの写真が一杯に飾ってあった。

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 その一枚にホームズはじっと見入り、私も彼の視線を追って、宮廷参内の礼装に身を固め、高価なダイヤモンドをあしらった頭飾りを頭に被った威厳ある貴婦人の写真に目がとまった。あの優雅な曲線を描いた鼻、凛とした眉目、きりっとした口元、小さいが強い顎を、私はそこに認めた。そしてかつてこの女性の夫君であった大貴族政治家の由緒ある称号を読んだとき、私は息を呑んだ。私の目がホームズの目と合った。そしてそのウィンドーから遠ざかりながら、彼は指を唇に当ててみせた。(高山宏訳)

 かつては女性の美貌がもてはやされても個人的な知り合いの範囲に限られていた。ところが写真を飾る習慣によって貴婦人なのに一種のpublicityを得るということが生じた。それがいかにも胡乱に感ぜられて、professionalという芳しからざる形容詞をbeautyに冠するようになったのだろう。
 この貴婦人もプロフェッショナル・ビューティたる資格を備えていた。たぶんそのひとりだった。ところが、チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンの毒牙にかかって失墜したのである。
 典型的なプロフェッショナル・ビューティは、写真だけでなく絵のモデルにもなることが多く、その美貌が広く一般に知られた。(続く)

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