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2009年4月 4日 (土)

プロの美人たち(12)

 どう訳したらよろしいか。
 They have their knives into one another, too. They are as jealous as a pair of professional beauties.

 この二人は不倶戴天の仲でね。社交界の花形同士が鉢合わせしたみたいに張り合っているのだ。
 
 どうでしょう。professional beautiesを訳注なしであっさり訳するには「社交界の花形」くらいしかないでしょう。
 単独では意味不明の「職業的美人」や「プロの美人」のような訳語を使っておいて、訳注をつける手もある。しかし訳注がこの「プロの美人たち」と同じくらい長くなってしまうのも困る。

 あるいは別案、「高等美人」というのはどうだろう? これは読者が漱石を読んでいてくれないと駄目だ。

美禰子が、
「丹青会の展覧会を御覧になって」と聞いた。
「まだ見ません」
「招待券を二枚もらったんですけれども、つい暇がなかったものだからまだ行かずにいたんですが、行ってみましょうか」
「行ってもいいです」
「行きましょう。もうじき閉会になりますから。私、一ぺんは見ておかないと原口さんに済まないのです」
「原口さんが招待券をくれたんですか」
「ええ。あなた原口さんを御存じなの?」
「広田先生の所で一度会いました」
「おもしろいかたでしょう。馬鹿囃子を稽古なさるんですって」
「このあいだは鼓をならいたいと言っていました。それから――」
「それから?」
「それから、あなたの肖像をかくとか言っていました。本当ですか」
「ええ、高等モデルなの」と言った。男はこれより以上に気の利いたことが言えない性質である。それで黙ってしまった。女はなんとか言ってもらいたかったらしい。

 漱石の愛読者でも分からないかも知れない。やはりものすごく長い訳注が必要だ。 やはり「社交界の花形」くらいが無難でしょう。

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コメント

こんにちは。

「社交界の花形」さすがにうまい訳語ですね。
性別が明確に出ればさらにgoodとも思いますが、
「社交界の花形美女」だとくどいかもしれまんね。

12回の連載面白かったです。お疲れ様でした。

投稿: 熊谷 彰 | 2009年4月 6日 (月) 12時26分

ありがとうございます。そうだ、性別のことは忘れていた。日本語ではなかなかむつかしいですね。

投稿: 三十郎 | 2009年4月 6日 (月) 15時05分

単純に「モデル」ではダメでしょうか?

投稿: | 2014年8月30日 (土) 03時08分

「モデル」はだいぶ違います。職業的と言っても報酬をもらうわけではない。現在のモデルとはだいぶ違います。貴婦人なのにプロだというところが不思議なのです。

投稿: 三十郎 | 2014年8月30日 (土) 06時27分

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