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2009年4月23日 (木)

キャッチ・アズ・キャッチ・キャンの意味(4)

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(1)「昔からオールイン(ALL-IN)と呼ばれる試合形式があったんだ」
(2)「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたものだ」

 All-INと呼ばれる試合形式は昔からあった。ビル・ロビンソンが1938年に生まれる前からあった。しかし西暦何年ごろに始まったのか、分かるとよいのだけれど。
 本当に「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたもの」だったのか? 
 もしそうなら、現在のMMA(総合格闘技)から、絞め技と蹴りを取り除いたようなものだ。
 そういうすごい競技が何年ごろから何年ごろまで、どこで行われていたのか? もし「興行」として行われていたなら、MMAに関連して話題になりそうなものだ。小生不敏にして、このGスピリッツの記事ではじめて知った。不思議だ。不思議だ。

 ビル・ロビンソンが「プロレスの温故知新」をする必要は毛頭ない。貴乃花が相撲の歴史なんか語る必要がないのと同じだ。
 しかし、もし
「現在の総合格闘技に近いものが、昔のイギリスにあったらしい」
 というようなことを聞いたら、ライターたる者
「エライこっちゃ」
と驚くべきだ。格闘技の温故知新に乗り出すべきだ。
「いつ、どこで、誰々が戦ったか?」
「どういう決まり手があったか?」
「新聞はどう報道していたか?」
 
 見かねてど素人の私が乗り出しかけたのは、実はずいぶん前のことです。
 柔道か柔術か(38)に、all-inという言葉が「レスリングで制限がないこと」という意味で初めて使われたのは1913年だと書き、例文を挙げている。

A fight is just a fight: Catch-as-catch-can, All-in, and Best-your-enemy-anyhow!
(戦いは戦いだ。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンでも、オールインでも、「何でも勝てばよい」式でも。)

 もう一つ追加。柔道か柔術か(33)で
Wrestling: Catch-as-Catch-Can, Cumberland & Westmorland, & All-in Styles
という1928年の論文を紹介した。その一部と原文を挙げる。

カンバーランド・ウェストモーランド式、グレコローマン式、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン式、オールイン式、あるいは日本の相撲においてさえ、軽量級はふつう重量級にかなわない。

(Alike, therefore,) in the Cumberland and Westmorland, Graeco-Roman, Catch-as-Catch-Can, All-in, or even the Japanese sumo styles of the art, lightweights do not usually contend against heavyweights.

 これらのAll-inはどういうレスリングか? 「ベアナックルボクシングとCACCをミックスしたもの」ではないでしょう。

 言葉の専門家(プロレスはもちろん素人)としては、ここまで調べれば仕事は終わりだ。大体の見当としては(33)で書いたように

 catch-as-catch-canは、グレコローマンのような制限がないレスリングという意味だ。
 20世紀になって、さらに制限が少ないオールイン(all-in)式レスリングが現れた。これが興業として行われるようになったのが、現在のようなプロレスである。オールインとは「何でもあり」の意味であるが、もちろん本当に何でもありではない。目潰しなどの危険な行為は当然禁止である。格闘技戦で使うようなパンチやキックも禁止である。暗黙の了解に反するような行為も事故につながるから当然禁止である。

 ということになる。ここまで「見当」をつければ素人の出番は終わりです。
 あとは、もしプロレスの専門家という者がいるのなら、「そんなことはない。いつどこでこういう試合があったことを見てもそれは間違いだ」と反証を出してくれればよろしい。もちろん「その通りです」と言ってくれてもよい。

  でもビル・ロビンソンがこう言いました? だめ。通訳は英語ペラペラでも内容が分からないと適当にごまかします。本人から直接英語で聞いても、信用はできるとは限らない。
 ロビンソンはものすごく強かった。しかし昔の英国の話をさせて正しいという保証にはならない。彼はあくまでインフォーマント(現地情報提供者)扱いすべきだ。「いつ、どこで、誰が」を問いたださずに信用してはならない。(まだ続く)

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コメント

ロビンソンは現地情報提供者?
当たり前でしょ。
それ以上の責任を彼におっかぶせたことなんて、一度もありませんよ。
「署名記事」として書いている以上、全ての責任は私にあります。

私はこう書いたはずです。
(出稿前の文であるため、誌上では少し変わっているかも知れません)

疑問が残るのは、これら(プライズファイトとしてのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの
試合)がボクシングの起源であるプライズ・ファイトとその起源は果たして同じものであるか、
という点である。
この件に関するヒントはビル・ロビンソンがもたらしてくれた。
「イギリスには昔から〝オールイン〟(ALL‐IN)と呼ばれる試合形式があったんだ。
ベアナックルのボクシングとCACCをミックスしたものだと思ってくれたらいい。
クリスマス近くには〝ボクシング・デー〟と呼ばれる日があって、毎年その日には
オールインの興行が開かれるんだ。
ウィガンのスネークピットでは、スパーリングでもヒジなどを使った打撃技を使うが、
それはこのオールインのスタイルに起因するところが大きいんだ」
果たして、俗にいうプライズファイトがこのオールインと呼ばれる興行と同意語であったのか、
または全く別の形式のものであったのか、そして同じであるならばどの時期にボクシングと
分化したのか全く判然としないが、それは今後の研究課題としたい。

ロビンソンが我々に話してくれるのは、あくまで彼にウィガンの先人からもたらされた口伝。
それがよしんば史実と異なっていたとしても、それは彼の責任ではありません。
だから「ヒント」と書きました。
そこから先は、我々がそれが事実であるのか、どういったものであるのか調査すればいいことです。

言葉足らずに他人の文章を引用して、あたかも私が
「ロビンソンの言葉を鵜呑みにしている」
「ロビンソンの名前を記すことで、彼に責任転嫁している」
ような印象を読む方に与えようとするのは、少し悪趣味でしょう。

アラ探しは結構ですが、悪意は識者に必ず伝わりますよ。

 那嵯涼介

投稿: | 2009年4月23日 (木) 22時32分

調査したのですか? ロビンソンに問いただしましたか?

投稿: 三十郎 | 2009年4月24日 (金) 08時43分

貴方が仰るようにあくまでビリーは「現地情報提供者」に過ぎません。
但し、彼は『北の湖』じゃありません。
北の湖氏に「相撲史」を聞くのは愚かかも知れませんが(それでもその辺の八百屋のオヤジよりは
ご存知でしょう)、勘三郎氏に「歌舞伎史」を尋ねるのは無価値とは思いません。
世襲制の彼らの世界には、一般には伝わってこない「口伝」が存在する可能性が高いので。
ビリーから拝聴する「物語」には、これと同じような価値があると私は考えております。

この件に関し彼がご存知のことは、全てお聞きしたつもりです。
彼に「4W1H」を問いただしても、戸惑われるだけでしょう。
ですから、そこから先は我々の仕事になります。

ただ他にも調査したいことは山のようにありますし、本業もあります。
いずれ機を見て行ないたいとは思いますが、急いではおりません。
プロレス史研究は、私の楽しみでありライフワークですので、性急に調査する必要もないのです。
どなたか、格闘技史家の方が私の代わりに調べて頂ければ、それに越したことはありません。
プライズファイト時代のボクシングを詳しく調べている方なら、私より適任かも知れません。
ちなみに当時の「プライズファイトの」試合が、パンチ・オンリーのものではなかったことまでは、
私も掴んでおります。
そこまでは三十郎さんもご存知ですよね?

 那嵯涼介

投稿: | 2009年4月25日 (土) 09時36分

本業もあるのは私も同じで貧乏暇なし。そのうちにオールインについてもプライズファイトについても書きます。あなたも書いて下さい。楽しみにしていますよ。

投稿: 三十郎 | 2009年4月25日 (土) 10時05分

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