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2009年11月20日 (金)

ショルトーの正体(1)

 ドイルはワイルドからあまり良い印象を受けなかったらしい、オスカー・ワイルドを戯画化して《四つのサイン》にでてくるサディアス・ショルトーを描いた。ショルトーは「南ロンドンという荒涼たる砂漠のなかの芸術のオアシスです」と話し始めるが、これはワイルドが1882年にアメリカ旅行をした時に「アメリカ女性? 彼女は常識という人を当惑させる砂漠の中の魅力的なオアシスですよ」と話した警句のパロディである。
(小林司・東山あかねp.155)

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 サディアス・ショルトーのモデルがオスカー・ワイルド? ワイルドはもっと偉かったと思いますよ。彼は少なくとも禿頭ではなかった。しかし、小林司・東山あかね両氏だけではなく、ほかの人たちもだいたい同じ意見のようだ。
  
 河出書房版ホームズのクリストファー・ローデンによる注釈を水野雅士氏の本から孫引きさせてもらう。

「サディアス・ショルトーの人物描写の中に、疑いようのないオスカー・ワイルド的なものが存在している。ワイルドは大変な、そしてきざな愛煙家であった。サディアス・ショルトーも水ぎせるを愛用している点においては――そうである。…………」…………さらにローデンは、《四つのサイン》でホームズが指摘したサディアス・ショルトーの筆跡に関する「この(縦に)長く書くべき文字の群を見てみたまえ。短い文字の列からほとんど頭が上に出ていない。dはaのようだし、lはeのようだ。しっかりした人物なら、どれほど読みにくい文字を書いたとしても、長い文字を短い文字のようには書かないものだ。彼が書くkは安定性に欠けるし、大文字にはうぬぼれが透けて見える」という特徴は、ワイルドの筆跡と共通する部分があると述べ、そのことから「リピンコッツ」誌のスタッダードが設定した会見で初めてワイルドにあったドイルは、その後おそらくワイルドと手紙のやりとりを始めたのだろう、とローデンは推測している。
(水野雅士pp.277-8)

「大変な、そしてきざな愛煙家」というなら、シャーロック・ホームズも同じではないか。
 ローデン氏の「推測」も、当てにならないと思う。コナン・ドイルとオスカー・ワイルドが文通していたなどと、どうして言えるのだろうか。どちらの伝記にも、文通のことなど書いてはない。

 
 
 どうもみなさん、オスカー・ワイルドを見くびっているのではないか。吉田健一を読んでみて下さい。「英国では、近代はワイルドから始まる。」いや、ワイルドを読めばよいのだ。

 アーサー・コナン・ドイルもジョン・H・ワトソンも正常な男だったから、「例のこと」があったワイルドを嫌っているはずだ、高く評価するはずがない――という先入観があるのでは?
 ドイルはワイルドを尊敬していたし、変態あつかいなどしなかった。したがって(?)、ワトソンも同じだった。

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コメント

合衆国大統領のbowが話題になっていますが、ホームズのHis Last Bowって「挨拶」というより「お辞儀」の意味だったのでしょうか。はたまた、ヴァイオリンのbowingだったのでしょうか。ずっと気になっています。

投稿: 土屋朋之 | 2009年11月22日 (日) 16時22分

His Last Bowの意味なんて考えてなかった。虚を突かれました。やっぱり「挨拶」という日本語があるとそちらを信用してしまうのですね。どっちだろう?
ドイツ語訳はSeine Abschiedngsvorstellungです。
His Farewell Performanceということになる。

投稿: 三十郎 | 2009年11月22日 (日) 22時54分

関係のない話を続けてごめんなさい。ネットで検索すると「This Is It: Jackson's last bow 」なんていう表現が見つかりました。one's last bow って一種の決まり文句なのでしょうか。

投稿: 土屋朋之 | 2009年11月23日 (月) 16時44分

Bow は 頭を垂れること なのでお辞儀です。

ヴァイオリンのbowing(運弓)なら、 last bow はホームズが弓をいくつか持っていて、一番最後に買った弓か、捨てたか処分したかして残った最後の弓ということになります。

投稿: 個人投資家 | 2011年11月19日 (土) 11時22分

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