« 毛むくじゃらのアイヌ人(5) | トップページ | カリスマ »

2009年11月 9日 (月)

毛むくじゃらのアイヌ人(6)

「頭蓋骨計測値」の話は『バスカヴィル家の犬』にもう一度出てくる。

  "I presume, Doctor, that you could tell the skull of a negro from that of an Esquimau?"
  "Most certainly."
  "But how?"
  "Because that is my special hobby. The differences are obvious. The supra-orbital crest, the facial angle, the maxillary curve, the --"

「黒人の頭蓋骨とエスキモーの頭蓋骨の区別は、先生にはつくでしょう?」
「もちろんです」
「どう区別しますか?」
「私の十八番ですよ。違いは明らかです。眼窩上隆線、顔面角、上顎曲線、それに……」

Camper1

顔面角

顎部の突出程度を横顔からみて表した角度。各進化段階にある人類の横顔をみると、顎部が前突している突顎から、口元がほとんど突出していない直顎まで、さまざまなものがある。そこで、18世紀後半にオランダの解剖学者カンペールPieter Camper(1722―89)が、人種の差異を示す標識の一つとして考案した。それは、横顔からみて、眉間から鼻の下で鼻中隔の付け根を結ぶ直線と、同じく鼻中隔の付け根と耳の穴とを結ぶ直線との間の角度である。彼は、世界各地の諸人種が群れ集うオランダのアムステルダム港で、多くの人々についてこの角度を計測し、また、古代の絵画に描かれている人物の横顔についても計測した。その結果、黒人の顔面角は白人のそれより小さく、猿類に似ていると主張した。この観察は一般には理解しやすいため、多くの人種論に引用された。しかし、この考え方は、各人種と各種霊長類を単純に一直線上に並べたにすぎず、その数字の意味するところを考えず、また誇張して人種差別に結び付けるきらいがある。そのため今日の人類学者は、ただ頭骨の形態を記述する項目としてのみ用いる。顔面角を測る方法としては、上述の他に全側面角、鼻側面角、歯槽側面角などが考案されている。
〈香原志勢〉 (C)小学館スーパーニッポニカ百科事典

 世界大百科事典の「顔面角」はあまりにも時代後れだ。古い「学説」をまともに相手にしてしまって「人種差別につながる」ことも書いてない。エンカルタには「顔面角」の項目がなく、ブリタニカにもfacial angleの項目がないのは、現代では問題とするに足らないという態度だろう。

 しかし19世紀の終わりから20世紀初めには、猿→類人猿→黒人→黄色人種→白人の順序で顔面角が大になり、これが進化の順序を反映しているという迷信がまだ有力だった。モーティマー医師も、黒人とエスキモーでは後者の方が進んでいて、もちろん白人が一番偉いと思っていただろう。
   イザベラ・バード女史は、これより少し前の1880年に、アイヌ人は「顎が突き出るような傾向は少しもない」と書いていた。黒人や蒙古人と違って顔面角が大きく、白人に近いということだ。
 このころ頭蓋骨計測値がいかに重視されたかは、もう少しあとにコナン・ドイルが書いた小説にも明らかだ。(続く)

Grades

|

« 毛むくじゃらのアイヌ人(5) | トップページ | カリスマ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21109/32122864

この記事へのトラックバック一覧です: 毛むくじゃらのアイヌ人(6):

« 毛むくじゃらのアイヌ人(5) | トップページ | カリスマ »