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2009年12月18日 (金)

センセーショナルな文学? (2)

 Knowledge of Sensational Literatureを正しく訳しているのは、私の知る限り、創元推理文庫の阿部知二訳だけだ。

九、異常事件の文献にかんする知識――該博、とくに今世紀におこった恐ろしい犯罪についてすべて詳細に知るもののようである。

  ホームズ曰く。
「理想的な探偵に必要な資質が三つあるが、彼はそのうちの二つを備えている。観察力と推理力はある。ただ知識が足らないだけだが、これはそのうちに身につくだろう」

 フランスの探偵フランソワ・ル・ヴィラールをこう評したのだった。知識が大切というが、何の知識か?

「事件は遺言に関わるもので、なかなか面白いところがあった。僕は彼によく似た事件を二つ教えてやった。一つは1857年のリガの事件、もう一つは1871年にセントルイスで起きたものだ。この二つをヒントに彼は正しい結論に辿り着いたのだよ」

 過去の事件の知識があれば、歴史は繰り返すので、新しい事件も「ああ、あれと同じだな」と分かることが多い。事件は「凶悪犯罪」事件に限らない。次は何の事件でしょうか?

「僕はよく似た事件をいくつか記録してある。もっとも、前に言ったように、これほどの急展開は初めてだが。調べてみると推測が確信に変わった。状況証拠が確証に近いこともある。特にソローの言葉を借りれば、牛乳に鱒が一匹入っていたなどという場合は」
「しかし君の聞いたことは僕も聞いたのだぜ」
「しかし君は古い事件を知らない。僕にはそれが前例としてずいぶん役に立つのだが。何年か前にアバディーンでよく似た例があったし、普仏戦争の翌年にミュンヘンでそっくりのがあった。……」

 もちろん『独身貴族』の事件であって、このときは犯罪は起こらなかった。
 しかし、過去の凶悪犯罪の詳細を知っておくことは、諮問探偵として絶対に必要なことだ。犯罪相互間にはfamily resemblanceがある、とホームズはヴィトゲンシュタインと同じ言葉使いをしている。だから彼は「異常事件の文献」をよく読んでいた。
 たとえば何という文献を読んだか? ホームズ自身が自分はこれだけは読んでいるという意味のことを述べている。

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コメント

たしかに「通俗文学」を読んでも「今世紀に起きたすべての凶悪犯罪事件に精通」はできませんね。
scientific literatureみたいな使い方があるのを忘れていました。
これなど「科学文学(SF小説など)」と訳して試験で×を付けられそう。

投稿: 土屋朋之 | 2009年12月19日 (土) 14時56分

コメントありがとうございます。元語学教師としてはこういうところは他人様の訳が気になるのです。

投稿: 三十郎 | 2009年12月19日 (土) 22時47分

シャーロキアンとしての功績は大だと思います。
正直言って、これだけ訳にこだわりを持っている日本人シャーロキアンを私は知りません。
ドイル全集の個人訳を進めておられる笹野さんは別格かな。

投稿: 土屋朋之 | 2009年12月20日 (日) 00時29分

笹野さんはすごいですね。『白衣の騎士団』しか読んでないけれども、どうしてあれだけ調べられるのだろう。

投稿: 三十郎 | 2009年12月20日 (日) 08時50分

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