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2010年1月 4日 (月)

物価について(3)

 ヴィクトリア朝の物価については専門家の研究がある。
 たとえば、日本銀行金融研究所/ 金融研究/ 2002.3に収録する北村行伸『物価と景気変動に関する歴史的考察』。
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2002/kk21-1-1.pdf

 上記5頁の図1 イギリスの消費者物価指数1264-1954 というグラフがある。
 グラフについて次のような説明がある。

 Phelps-Brown and Hopkins[1955, 1956]は、1264年から1954年までの物価・賃金指数を計算している。図1はイギリスの消費物価指数を表している。1264年=1とした場合、価格が10倍になるのは1795年である。すなわち、年率で3%以下の上昇しかしていない。その傾向は20世紀に入るまで続き、実際に1932年の物価水準は1795年よりも低かったことが知られている。全体としてみると、大幅な物価上昇がみられたのは第1次大戦以後であることを認識しておくことが必要である。

 この段落に下記のような注がついている。

 この間の物価の安定を捉えて、Fischer[1996]は、ヴィクトリア女王(1819~1901年)の生きた時代にほぼ重なる時期(1820~96年)を取り上げて、「ヴィクトリア均衡」と呼んだ。
 Fischer[1996]によれば、物価(上昇)革命期には、人口増加、実質賃金低下、所得格差拡大、資本収益率上昇などの共通点がみられ、物価(安定)均衡期には、ほぼその逆の現象が観察されている。
 ところがヴィクトリア均衡期には、それまでの期間とは違うダイナミックな変化があった。すなわち、人口が増加しつつ、それを上回る経済成長があり、さらに、すでにみたように産業構造が大きく変化し、国際的生産要素(資本、労働)移転も進んだ。このような状況で、実質賃金は上昇し、金利は低下、土地資産価格は変動をしつつも長期的には安定していた。
 さらにジニ係数で測られる所得分布は長期的に平等化していた。その間、金銀の国際準備残高は急上昇したが、一般価格は安定的であるかやや低下したこと、等が各種の統計資料を使って説明されている。

 シャーロック・ホームズが活躍したのはイギリスの黄金時代だった。ホームズのような中流上層の人間は快適な生活ができた。この「ヴィクトリア均衡期」には、「実質賃金は上昇し」「ジニ係数で測られる所得分布は長期的に平等化していた」というから、下層階級の暮らしも楽になってきた。エスコットという名前の配管工などは商売繁盛で景気がよかった(『チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン』)。ベーカーストリート・イレギュラーズの子供たちも、ディケンズの時代ほどは悲惨な目に遭わないで済んだ。

「Phelps-Brown and Hopkins[1955, 1956]は、1264年から1954年までの物価・賃金指数を計算している」というのは、物価・賃金指数の計算方式を明らかにしているということだ。1264年と1795年では物価が10倍になっているというには、計算の根拠があるはずだ。たとえば、小麦粉1ポンドの値段、リンネル1ヤールの値段、大工の1日の手間賃などいくつもの名目価格を調べて、適当な計算式で物価指数を出しているはずだ。
『シャーロック・ホームズの生れた家』の翻訳者は、1ポンド=約1万2000円の根拠を明らかにしていない。もちろん、翻訳者がそんなことをする必要はない。ただ、別の換算率もあり得ることは頭に入れておいてよいと思う。

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コメント

>この「ヴィクトリア均衡期」には、「実質賃金は上昇し」「ジニ係数で測られる所得分布は長期的に平等化していた」というから

 実質賃金が上昇し、物価が下がるのは、デフレだったからですね。
 金銀本位制だから、イングランド銀行の保有する金銀の量以上には通貨を発行できないから、どうしてもデフレ傾向になります。
 

投稿: 個人投資家 | 2012年3月15日 (木) 20時55分

なるほど、デフレ。しかし金銀本位制の下でのデフレというのは、現在のようなslumpとはちょっと違うのでしょうね。消費税増税反対!

投稿: 三十郎 | 2012年4月18日 (水) 20時35分

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