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2010年1月25日 (月)

前田光世の伝記(4)

 丸島隆雄氏の『前田光世 世界柔道武者修業』は『格闘技通信』に連載したものだという。
 こちらではハック・スミスではなくジョージ・ハッケンシュミットと書いてある。
 前田に挑戦された経緯は、神山氏の前田光世伝とほぼ同じである。ただ、ニュアンスが少々違う。丸島氏によれば

 ハックにしてみれば前田は格下の存在である。又、イギリスで少しばかりブームになったとはいえ、ヨーロッパではレスリングに比べれば柔道の存在は余りにも小さかった。勝って得るものよりも、負けて失うものの方が大きい。そんな試合をするようなハックではなかった。(丸島p.179)

 これならば猪木が「格下」の挑戦を受けない理由としても通用する。1997年より前の格闘技通信に、ハッケンシュミットをスミスにして前田光世の前で「縮み上がった」などと書いたら大変だったろう。プロレスファンという人種は21世紀になってもまだ死滅せずに生き残っているくらいだ。
 しかし神山氏と丸島氏は同じ史料を使ったのだと思う。
 前田光世がイギリスから友人の薄田斬雲宛てに手紙を書き、それをもとにして薄田が『世界横行 柔道武者修業』(明治45年博文館)を出した。
 前田光世は相手のレスラーが「姓はスミス、名はハッケン」だと思っていたに違いない。薄田斬雲もハッケン・スミスと書いたのだろう。
 丸島氏は神山氏と違ってプロレスを知っているからハッケン・スミスをちゃんとハッケンシュミットに直したのだ。
 英語の前田光世伝はどうなっているか? 変なことになっている。

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 プロレスファンの逆鱗に触れるのを恐れて「前田光世が英国でプロレスラーに挑戦して謝らせた」という挿話は残して、名前だけ変えてしまった。ハッケン・スミスでもハッケンシュミットでもなくエッソンというレスラーが前田から逃げたことになっている。
「プロレスファンはうるさい」のは日米同じらしい。
 フランク・ゴッチとジョージ・ハッケンシュミットはプロレス史上大切な名前で軽々しく扱うと大変らしい。

  しかし、ハッケンシュミットが谷幸雄に何度も挑戦されて断ったのは事実だ。柔道か柔術か(65)など参照。http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/65-cf0d.html これは英国の新聞記事などに記録が残っているはずだ。柔道か柔術か(16)にも書いていた。http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/16_2bb5.html
 前田光世の挑戦は一度だけらしいし記録は前田の「ハッケン・スミスというレスラーが云々」という手紙くらいしかないのかも知れない。しかしハッケンシュミットが「縮み上がった」のかどうかはともかく、柔術家二人の挑戦を避けたことは確かだろう。少なくとも「負ける危険がある」と考えたのだ。

  おまけ。「前田光世伝説」というサイトの引用。http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Poplar/4125/coma.htm
 以下は私が書いたのではありません

大会後、当時ヨーロッパ最強と言われていたロシア人レスラーハッケン・スミスが新聞上で
「大会を席巻した東洋の小柄な柔道家もレスラーの前では相手ではなかった」等と口撃。
それを見た前田は興業を打っていたスミスの試合会場に乗り込み対戦要求。しかしスミスは縮みあがって
「あの記事は私が言ったことではない、記者が勝手に付け加えたんだ。私はレスラーだ、職業選手だ。流儀が違うと言っても柔道と勝負して負けたら自分の職業に影響する。ハッケン・スミスが負けたと新聞に書かれたらそれでおしまいだ。どうか察してくれ。」と懇願し敵前逃亡。
これは、前田の強さを証明するエピソードであるとともに、スミスの「ショーアップされたプロレス」と前田の「真剣勝負の凄み」の違いを物語っており現代と重ねてみてもとても興味深い。
ちなみに、スミスは前田との対面直後1908年4月3日、アメリカのシカゴで4万人の観衆を前にフランク・ゴッチ(言わずと知れたプロレスの神様カール・ゴッチのお父さん)と現在のプロレス史の端緒になるといわれている伝説的な試合を行った。

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