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2010年2月 4日 (木)

容積の問題(1)

「僕の頭のわるいのはよく承知しているが、それにしても君のいうことはさっぱりわからないよ。たとえばこの男の知能のすぐれていることが、どうして分かるんだい?」
 答える代わりにホームズは、帽子をとって自分の頭にかぶってみせた。帽子はすっぽりと鼻まできた。
「容積の問題だよ。これだけ大きな頭をもつ男だったら、なかみも相当あろうじゃないか」
(延原謙訳)

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 ホームズとワトソンは、ヘンリー・ベーカーという紳士のものらしい帽子をめぐって話し合っているのだった。『青いガーネット』はストランド・マガジンの1892年1月号に載った。
 この時代には「頭の容積が大きければ大きいほど頭がよい」と考えられていたらしい。百年以上前には、ホームズやワトソンも真面目にそう信じていたようだ。
 頭の容積と知能の関係について考え方が変わってきたのはいつごろからだろうか?
 昭和16年(1941年)の東京朝日新聞に、東京大学医学部精神科の内村裕之教授が『傑出人脳のこと』というエッセイを載せている。

 日本人および欧米人の平均した脳重量は、男子で1370グラム前後、女子はこれより120-130グラム軽いのであるが、傑出人脳にははなはだ重いものが稀ではない。ツルゲーネフの2012グラム、ビスマークの1807グラム、わが国では桂太郎公爵の1600グラム等が、巨大な脳髄として知られる。
 しかし重量についても種々の例外がある。従来知られているもっとも巨大な脳髄は、ある癲癇患者の2850グラムであるし、また傑出人中ではアナトール・フランスの1017グラムというように、平均脳重量を遙かに下回るものもある。もっともフランスのように80歳もの高齢者となると、老齢による萎縮のために重量減少を見込まねばならない。1000グラム以下の脳重量で普通人たるの精神機能を営んだ人の脳を研究した学者があるが、それによると、一定の脳容積中にある神経細胞数が、通常脳の三倍以上に増加して、小さい脳容量を補っていたということである。
(中公文庫p.32)

 頭の容積(重さ)と知能の関係について内村教授は断定を避けているようだ。

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