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2010年2月19日 (金)

貞操について(1)

 変な題をつけちゃった。前に書いた『プロの美人たち』の補遺です。たとえばhttp://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/10-51e1.html
「一定の条件」を満たせば、姦通公認の場合があったという話だった。
 ヴィクトリア朝後期からエドワード朝(1901-10)の話である。
 その一定の条件とは何かは、まだ研究していない。
 必要条件の一つは、「上流階級であること」だ。
 医学博士ジョン・H・ワトソンと陸軍大尉の孤児メアリー・モースンは1888年に結婚した。この夫婦は中流階級だから、当然互いに貞節だったはずだ。でなければ結婚は破綻する。
 
 上流でも結婚前は絶対に処女でなければならなかった。
『チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン』の事件(1899年)の依頼人は、レディ・イーヴァ・ブラックウェルだった。ホームズによると

「この前のシーズンに社交界にデビューした中では一番の美人だ。ドーヴァーコート伯爵との結婚を二週間後に控えている。ところがこの女性がむかし若い貧乏地主に少々軽はずみな手紙を何通か書いてね。それが悪党ミルヴァートンの手に渡ったのだ。手紙は軽はずみという以上のものではないのだ、ワトソン。それでも、破談になるには十分だろう。大金を払わなければ手紙を伯爵に送りつける、とミルヴァートンは言う。それで僕がきゃつに会って値段を交渉してくれと頼まれたのだ」

 社交界にデビューしてすぐ伯爵との結婚が決まったのは大成功だ。せっかくうまく行ったのに「軽はずみな手紙」で破談になる恐れがある。挙式二日前になってモーニングポスト紙に「結婚はとりやめになりました」という短い記事が出たりしては大変だ。だからホームズも嫌悪を押し殺して恐喝王チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンに会おうというのだ。

Chas01

 結婚してからは、チャーチルのお母さんのように自由な立場になることもあった。条件の一つに「跡継ぎの男子を産んでいること」があったようだ。チャーチル夫妻には長男ウィンストンが生まれていた。弟は誰か別の人の子だったようだが、それで差し支えなかったらしい。

 ところが
「たった二行しかない手紙を持ち込んだ召使に、ミルヴァートンは七百ポンド支払った。その結果は、ある貴族の破滅だった」
 という事件をホームズは知っているという。これは既婚婦人だった。
  ホームズとワトソンは大変な事件の目撃者になるが、この事件に関わったのも既婚婦人だ。

Chas04

 しかし、上流の既婚婦人であって一定の条件が満たされれば、厳格な貞操の義務はなくなり、姦通が公認される場合があった。姦通の制度化である。

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コメント

「第二の汚点」でもミルバートンのような男が出てきます。
この手のネタが現実にも多かったのでしょうか。

投稿: 土屋朋之 | 2010年2月21日 (日) 21時43分

トレローニー・ホープ氏令夫人ヒルダが「結婚前に書きました軽はずみな手紙でございます……」でしたっけ。結婚前に何かあっては絶対に困るらしいですね。結婚後ならある程度はよろしいというのは文明が進んでいるのだろうけれど、もう一つ分かりにくいですね。

投稿: 三十郎 | 2010年2月21日 (日) 22時03分

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