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2010年2月 6日 (土)

容積の問題(3)

『青いガーネット』がストランド・マガジンに載った1892年(明治25年)ごろの西洋では
「容積が大きければそれだけ頭がよい」
と専門家も一般人も考えていたらしい。もちろん日本人も西洋人にならってそう考えていた。
 しかし、もっと昔の日本人は、現代人と同じように
「極端に頭が小さくてはよくないが、大きいからといって知能がすぐれているとは限らない」
という常識的な考え方をしていたのではないだろうか。

「拝領の烏帽子梶原縫い縮め」
という川柳がございますな。

Kajiwaranokagetoki

 梶原景時は源頼朝お気に入りの家来だった。弟の源義経とは例の逆艪論争などで対立したから、悪人だと言われたけれども。
 その梶原が主人の頼朝から烏帽子を拝領したが、サイズが大きすぎたので縫い縮めてかぶったというのですな。頼朝という人は頭が大きいので有名だった。
 もし拝領の烏帽子をそのままかぶったとしたら、シャーロック・ホームズがヘンリー・ベーカー氏の帽子をかぶったときみたいに、すっぽりと鼻まできただろう。
 しかし
「さすが頼朝公、これだけ大きな頭をもっておられる。なかみも相当あろうじゃないか。征夷大将軍になるお方は家来よりずっと頭がいい」
 なんてえことは、むかしの日本では誰も言わなかった。
 もちろん源頼朝は尊敬されていた。知能も優秀のはず。しかし知能と頭のサイズは別だ。頼朝には「大頭どの」という仇名があった。偉い人だが極大頭は滑稽だ。
 むかしの日本人は19世紀末から20世紀初めの西洋人と比べてはるかに常識があったのだ。
「頭大なれば知能優秀」というトンデモ説が流行ったのは、白色人種優越説と関係があると、私はにらんでいる。
 内村裕之教授は
日本人および欧米人の平均した脳重量は、男子で1370グラム前後、女子はこれより120-130グラム軽い」
と書いている。
 1941年になると日本人と欧米人の脳重量は同じだと分かっていたので、ぜひ書いておかなくては、と思ったのだろう。
 それより前、たとえば19世紀末には、十分なデータも集めずに、脳の重量/容積では、白人>黄色人種>黒人だ、という説が行われたようだ。
 長与又郎は1904年東大医学部を卒業してフライブルグ大学に留学したが、ドイツで「西洋人の脳は日本人より大きい」という説を聞かされたらしい。

 長與又郎が、「『東洋人の脳は、西洋人に比べ小さい』という説に憤慨」して、「『日本民族の優秀性』を実証する事例として集めた」「『傑出人の脳』のコレクション」の中に、漱石の脳の標本も含まれる。長與は、1939年「傑出人脳の研究」で、「生前優れた能力を示した人の脳は、一般人よりも重く」と結論づけていたが、「今は、脳の大きさと頭の良さは関係ないというのが常識」というのは、唐沢俊一も書いている通り。(http://tondemonai2.blog114.fc2.com/blog-entry-376.html)(唐沢俊一氏はあちこちで批判されている。よほど偉い人なのだろう。)
 
 しかし、このあたりの行文は「だろう」「らしい」「ようだ」ばかりで、白人脳が重いという論文はいつ誰が書いたか、具体的に書けないのが残念だ。
「顔面角」について、同じような憶説があったことは「毛むくじゃらのアイヌ人」で触れました。http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/6-e104.html

 ホームズもワトソンも活躍したのは百年以上前だ。現代から見れば「トンデモ」の学説を信じている場合もあったのだ。

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コメント

こんにちは。
頭囲の大き過ぎるのはある障害の顕著な特徴らしいです。この本に書いてありました。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4344981421/ref=pd_lpo_k2_dp_sr_1?pf_rd_p=466449256&pf_rd_s=lpo-top-stripe&pf_rd_t=201&pf_rd_i=4062847221&pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_r=0EYN8Q17D8D8ZSDDZYV2
御参考まで!

投稿: oha | 2010年2月 7日 (日) 05時29分

なるほど、勉強になります。アスペルガーというのは聞いたことがあるけれど、大頭と関係があったのか。

投稿: 三十郎 | 2010年2月 7日 (日) 14時55分

そもそも脳が知能を司ってるって概念そのものがなかったと思いますが
近代医学以前は西洋でも心臓に霊魂が宿ってるとするのが主流でしたし
で、近代医学が脳を再発見したとき単純に脳の大きさ=知能の高さにしたのも自然な流れで特に変だとは思いません

投稿: | 2010年2月 8日 (月) 19時13分

「霊魂」はともかく、知能が頭部と関係があることは西洋でも日本でもずいぶん前から分かっていたのではないでしょうか。川柳を作った江戸時代の庶民だって、頭部に怪我をすれば知能に障害が生じるくらいのことは心得ていたでしょう。解剖などはしなかったから「脳みそ」という考え方はまだなかったか?

投稿: 三十郎 | 2010年2月 8日 (月) 20時15分

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