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2010年5月13日 (木)

ワトソンは女だった(2)

 夜は十時過ぎまで起きていることはめったになく、朝は必ず私の起きる前に食事を済ませて出かけていました。(『緋色の研究』p.9)

  これを読んで私は名状しがたいショックを受けました。これほどまでに明白な手掛かりが長年にわたって何百万もの読者に見逃されてきたとは! これは女が男のことを語っているのです。読み直してみて下さい。この口調は明らかに妻が夫の――いや、単に憶測をめぐらせるのでは駄目ですね。事実を確定する証拠が必要だ。女が男のことを語っているのには疑問の余地がないが、妻と夫なのか、それとも愛人同士が……恥ずかしくなってきた。私はシャーロック・ホームズのために赤面して、本を閉じたのであります。しかし、好奇心の火が体内で燃え上がり、すぐに同じ頁を開いてみた。すると次の段落には

 この男の人がどれほど私の好奇心を刺激したか、また、自分については何一つ話そうとしない彼の沈黙の壁をやぶろうとどれほど苦労したか、その一部始終を語ったら、読者は私のことを度し難い詮索好きと思うでしょう。

 ひどいものだ。気の毒なホームズ! せめて「彼をもっと理解したいと思ったのです」とか「彼と共有したいものがあったのです」なんて月並みの婉曲語法を使えばまだかわいらしいのですが、彼女は野蛮なまでに単刀直入に「沈黙の壁をやぶろう」というのですよ。私はおののきふるえ、生まれて初めて、シャーロック・ホームズが神ではなく人間である、苦悩する人間であることを感じたのであります。この一ページでワトソンなる人物の性別の問題は確定したのであります。明らかに女であります。しかし、妻か愛人か? さらに先を読んでみました。二ページ先にはこう書いてある。

 彼のヴァイオリンの腕前は……私が頼むと彼はメンデルスゾーンの無言歌などを弾いてくれるのでした。

「メンデルスゾーンの無言歌を弾いてくださらない?」なんて、男が男に頼みますか!
 さらに次のページにはどう書いてあるか。

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