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2010年5月17日 (月)

ワトソンは女だった(5)

……夜になるまでベイカー街には帰らなかった。居間に戻ってきたときは、もう九時近くになっていました。
 ドアを開けたとき、一瞬、火事だと思いました。だって部屋中もうもうと煙が立ちこめて、テーブルの上のランプまで霞んで見えたのですから。でも中に入ってみて安心しました。強い安煙草のいがらっぽい煙が喉に来て咳き込んだだけと分かったから。ドレッシングガウンを着たホームズが黒い陶製のパイプをくわえてアームチェアに丸まっているのが、煙越しにボンヤリと見えました。周りには紙を丸く巻いたものが散乱していた。
「風邪を引いたの、ワトソン?」と彼は言いました。
「違うわ、この有毒ガスのせい」
「そういえば、かなり煙いね」
「煙いだなんて。よく平気でいられるわね」
「じゃあ、窓を開けたらいい」

 どう見ても夫婦でしょう。こういう陳腐なシーンを読めば、誰だって疑問の余地はないと言うはずです。これ以上の証拠が必要でしょうか?

 まだどうしても信じられんという人がいますか。それならいくらでも証拠を挙げられます。たとえば、ホームズにコカインをやめさせようと骨を折ったことは聖典のあちこちで触れています。これは細君が亭主を調教しようとして、とうとう成功した、満足満足というのですよ。
 
 同じように説得力のある証拠があります(少々複雑ですが)。すなわち、ホームズの有名な失踪事件の顛末は『最後の事件』で、その理由は『空き家の冒険』で説明していますが、この説明なるものが奇妙というか本当に仰天ものなのです。こういう途方もない欺瞞がずっと昔に暴かれなかったのは何故でしょうか?

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