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2010年7月15日 (木)

ワトソンの資格(6)

 1878年に私はロンドン大学で医学博士号を取り、陸軍軍医(surgeons in the Army)養成の課程を履修すべくネトリー病院に進んだ。そこでの研修を終え、軍医補(assistant surgeon)として第五ノーサンバランド・フュージリアーズ連隊に配属された。当時、連隊はインドに駐在していたが、私の着任前に第二次アフガン戦争が勃発した。ボンベイに上陸してみると、我が軍はすでに山道伝いに進んで敵地に深く侵入していた。同じ立場の将校は多かったから、私は彼等とともに後を追い、無事にカンダハールに着くと連隊がいたので直ちに初めての任務に就いたのである。

 それからどうなったかというと

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 その結果、イギリスに帰って、シャーロック・ホームズ君と知り合うことになったのでした。
 ワトソンは元は陸軍の軍医だった。正式の資格はassistant surgeonだが、「軍医補」という訳でまずよいでしょう。裁判官も任官後何年かは「判事補」である。軍医の場合は「補」が付くか付かないかで別に仕事の内容が異なるわけではなく、階級の違いを表すだけのようだ。
 軍医は陸軍でも海軍でもphysicianではなくてsurgeonである。仮に兵隊が結核のような病気にかかればすぐに除隊させてしまえばよいので、軍が内科医を抱えている必要はない。
 外科医の仕事も、内臓の手術はほとんどなかった。砲弾や銃弾や銃剣による傷の手当てが大部分を占めていたはずだ。手足を切断しなければならないケースも多かったことは、ジョナサン・スモールの述懐からも明らかだろう。

「ちょうど川の真ん中まで泳いだところで、鰐に襲われて右足を持ってかれたんで。膝のすぐ上を、まるで軍医(surgeon)がやったみたいにきれいに噛み切って行きやがった。」

 これはインド大反乱(1857-59)の勃発前のことである。当時は軍医が片足切断の手術をするとしても麻酔はなかった。「男だろう、我慢せよ」とか何とか言ってメスとノコギリで切り取ったはずである。
 ワトソンのころになると麻酔術は発明されていたが、戦場では設備がなかった。ただ、1860年にジョゼフ・リスター(1827-1912)がはじめて無菌手術を行って以来、手術中の殺菌は徹底するようになっていて、死亡率は低下していた。リスターは1902年にエドワード7世を脅して虫垂炎手術をさせた人である。

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