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2010年10月25日 (月)

ボクシングとレスリング(1)

 摂政時代はイギリスのボクシングの黄金時代であった。18世紀の初めから盛んになったボクシングは、今日的な意味からすれば、ボクシングとレスリングの合体したものと考えることができる。…………(ジャック・ブロートンは)1743年に8項目からなるルールを定めた。それを見ると、まだリングというものは特に指定されておらず、舞台の中央に1ヤード四方の四角をチョークで描き、戦う者がそこまでくれば戦闘意欲があるとみなして何十回でも続行した。またルールの中には「相手が倒れたら殴ってはならないし、臀部、ズボンなど腰から下をつかんではならない」というのもあって、逆にレスリングまがいの実態をうかがい知ることもできる。実際にイングランドのチャンピオン戦でも、片手で相手の髪をつかみ、もう片手で殴るといった事例もあったという。
(富山p.207)

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 下線部は間違いです。「ボクシングとレスリングの合体」ではありません。両者は明確に別のものだった。
 しかし『シャーロック・ホームズの世紀末』の著者富山太佳夫氏は英文学者であって格闘技研究家ではないのだから、これくらいの間違いを責めるのは酷だろう。
 実際、上のイラストのような戦い方をしたのだから、ふつうの人が「これではまるでプロレスじゃないか」と思うのは無理からぬところだ。左側の選手が1792年から95年までイングランドのチャンピオンだったダニエル・メンドーザ(1764―1836)である。彼は身長5フィート7インチ(170cm)、体重160ポンド(72.6kg)というミドル級の体格で大男を相手に戦って第16代イングランド・チャンピオンになった。それまでのボクサーは力任せに殴り合うだけだったが、メンドーザは初めてサイドステップ、ダッキング、ブロッキングなどで相手のパンチをかわして「打たれずに打つ」という科学的ボクシングの元祖になった。下の図では両拳を上げて顔をガードしている。

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 メンドーザは、上のイラストのように今日では反則になる戦い方をしたのだが、「片手で相手の髪をつかみ、もう片手で殴る」というやり方を「された」のも彼である。1795年、ジョン・ジャクソンという男の挑戦を受けた。この相手はメンドーザより5歳若く、4インチ(10cm)高く、42ポンド(19kg)重かったが、チャンピオンの長髪を片手でつかんでもう片手で殴るという手に出た。メンドーザはさんざんに打ちのめされて10分ほどでギブアップした。以後ボクサーは髪を短く刈るようになった。
 摂政時代(Regency)は1811年から1820年である。この「イギリスのボクシングの黄金時代」を描いているのが、コナン・ドイルの『ロドニー・ストーン』である。メンドーザも重要な登場人物であるが、すでに引退してパブの亭主になっている。彼はボクシング学校を開き、著書The Art of Boxingは広く読まれた。
 しかし、ボクシングとレスリングの区別の話だった。

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