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2010年11月 9日 (火)

六つのナポレオンの不思議(3)

 正典全体を見ても、世界中からロンドンにやって来る人々は多く、シャーロック・ホームズの事件の関係者には外国人がかなりいる。
『緋色の研究』でまず死体となって見つかったのはアメリカ人だ。英米間には特別の関係があっただろうが……しかし、最後に犯人として捕まった男もアメリカ人で、この男は本名を名乗っていなかった。外国人がアイデンティティを隠して滞在し働くというのは、現代の英国ではできないことだ。
『四人の署名』のジョナサン・スモールは英国人だが、彼も本名は名乗らなかったはずだ。トンガにはもちろん身元証明の書類など何もなかった。
『恐怖の谷』では、銃身を短く切り詰めた特製ショットガンを持ち込んだアメリカ人がいたらしい。今ならそのこと自体が大問題になっているだろう。

Sawedoffshotgun

『ボヘミアの醜聞』の王様は「余はヴィルヘルム・ゴッツライヒ・ジュゲムジュゲムである」と名乗って入国したのではない。「プラハから微行して参ったのだ」覆面のまま入管を通ってきたりして。
 ベッポのようなイタリア人はどんどん入って来ていた。『六つのナポレオン』の事件で殺された人物についてレストレイドは
「ホトケはカトリックの紋章を――いや、これはやはり変だ。言い直します――死体はカトリックらしく首から十字架をさげていたし、色も黒いから南から来たのだろうと見当をつけました。ヒル警部に見せるとすぐに正体が分かりました。名前はピエトロ・ヴェヌッチといって、ナポリ出身、ロンドンで一番凶悪な殺し屋の一人です。マフィアに関係がある。ご存じのように、マフィアは秘密の政治結社で、掟に背いた者は殺してしまう。これで事件の謎がだいぶとけてきましたね。相手もやはりイタリア人で、マフィアでしょう。何かで決まりを破ったので、ピエトロがあとを追うことになった。ポケットに入っていた写真がその相手でしょう。間違って他人を刺してはいかんというのだ。ピエトロが相手のあとをつけ、家に入るのを見たので外で待ち伏せした。もみ合いになって刺されて死んだ。というところですが、いかがです、シャーロック・ホームズさん」
 レストレイドは得意そうに話している。マフィアの殺し屋が横行しているなんてまことに憂慮すべき事態のはずだが。
 しかし、むかしはある程度犯罪があっても仕方がない、全部取り締まろうとすればものすごいコストがかかるから――という考え方があったのではないか。切り裂きジャックのような戦慄的な犯罪は例外だった。テロとの戦い? アナーキストが爆弾を仕掛けるなんてことは、ジョゼフ・コンラッドの小説じゃあるまいし、まあ外国の話だろう。
 
 

  出入国管理が緩くて外人を入れてしまえば、就労ビザなどという制度は仮にあってもちゃんと機能しない。
 アメリカ人ジェファーソン・ホープは辻馬車の御者になった。イタリア人ベッポは職人として稼ぎ一時はまともな生活をしていた。ドイツ人ゲルダー氏は石膏像製造会社を経営していた。
 そして日本人も……

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