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2010年12月19日 (日)

ワトソン博士伝(6)

 イングランドには友人も親戚も一人もおらず健康は損なわれ一日あたり11シリング6ペンス(年収では200ポンド以上)の手当しか収入がなかったのであるから、性格の弱い男なら絶望の淵に沈んでしまうところだ。しかしワトソンはすぐにわびしい無意味な生活の危険を悟った。ストランドの粗末なホテルでさえ、金がかかりすぎる。ある日「すっかり痩せこけて真っ黒に日焼けした」ワトソンがクライテリオン・バーに立っていると、後ろから肩を叩く者がある。セント・バーソロミュー病院で彼の助手をしていたスタンフォード青年だった。見知った顔に出会って大喜びしたワトソンは早速ホルボーンまで連れて行って昼食をおごった。実はひとつ差し迫った問題があってね。どこか手頃な値段の下宿はないだろうか。スタンフォード青年はワイングラス越しにちょっと妙な目つきでワトソンを見た。スタンフォードには自分が文学史上最大の仲介者になるという予感があっただろうか。彼がこれからお互いに紹介する二人は、百年以上前にコベントガーデンのラッセル街でトマス・デービスが引き合わせた二人に匹敵する大物だった。

[もちろん原著者ロバーツ氏が言うのは、1763年5月16日のサミュエル・ジョンソンとジェームズ・ボズウェルの出会いである。このとき二人がはじめてかわした言葉は

[Boswell:] "Mr. Johnson, I do indeed come from Scotland, but I cannot help it."
[Johnson:] "That, Sir, I find, is what a very great many of your countrymen cannot help."

ジョンソン博士の辞書にある燕麦の定義は有名だ。

Oats : A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland appears to support the people. (Samuel Johnson, 1755, A Dictionary of the English Language)

燕麦:穀物の一種であり、イングランドでは馬にやるがスコットランドでは人に喰わせる。

S・C・ロバーツ氏はジョンソン博士研究が本業である。]

 ワトソンをセント・バーソロミュー病院の化学試験室へ連れて行って、スタンフォード青年は歴史的使命を果たしたのである。

「こちらはワトソン博士、こちらがシャーロック・ホームズ氏です」
「初めまして。あなたはアフガニスタンにおられたのですね」
「え、どうしてそれが分かりますか」

 というのが二人がはじめてかわした言葉だ。ホームズとワトソンはすぐにベイカー街にある下宿に同居することを決め、ワトソンは肩の荷が下りたのだった。それに
「(ホームズは)謎なんだね。実に面白い。彼を紹介してくれてほんとにありがとう。『人間にふさわしい研究課題は人間だ』と言うからね」

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