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2011年1月26日 (水)

ミステリの美学(1)

 探偵小説というものは普通、血湧き肉躍る読み物であるが、『四つの署名』が作者の代表作のレベルにあるとはとても思えない。それはぞっとするような事件満載の奇妙なごった煮で、不吉な財宝とかくれんぼうをしているのが異色の一団なのはまちがいない。義足の囚人、彼のお伴である残虐で不格好な小男、醜い双子、愛想の良い懸賞拳闘家、賢い探偵と愚かな刑事、そして物語の語り手を恋人に持つ心優しい娘が、もつれ合いながら乱舞し、謎と宝を終局に導く荒れ狂う奔流となってクライマックスを迎える。ドイル医師の崇拝者たちはこのささやかな小説に熱中して最後まで読み進むだろうが、その後、再読のために手に取ることはないだろう。
(「アセニアム」より、ロンドン、一八九〇年一二月六日)
(p.p. 196-7 「名作ミステリの同時代書評四選」より、他の三篇は『月長石』『トレント最後の事件』『ベンスン殺人事件』)

 アセニアムはAthenaeumという雑誌らしい。
『四つの署名』(『四人の署名』)はThe Sign of the Fourというタイトルで月刊リッピンコット誌1890年2月号(ロンドンおよびフィラデルフィアで発売)に一挙掲載された。この雑誌の値段は英国版が1シリング、米国版が25セントだった。いま古書価は数千ドルになるそうだ。1890年10月に単行本として出たときのタイトルは英国版も米国版もThe Sign of Fourだった。

Lippincotts_sign_of_four_2

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