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2011年3月 9日 (水)

ボクサー弾を百発(2)

I have always held, too, that pistol practice should be distinctly an open-air pastime.

「ピストルの射撃というものはかならず野外でなされるべきスポーツだと私はかたく信じていた。」
「かねがね私はピストル射撃などというものは、本来、戸外でやるべき娯楽だと思っている。」

 ワトソンがこう信じていた/思っているということで、これはこれで結構だ。
 しかし、「室内ピストル射撃」はスポーツ/娯楽としてちゃんとあったのだ。saloon pistolという特別のピストルを使った。

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 saloon pistolは辞書にも出ている。リーダーズ英和辞典には「射的場用ピストル」とある。
 弾倉がなく単発であることは見れば分かる。弾はせいぜい22口径くらいの小口径でリムファイアのごく威力の弱いものを用いた。引き金は初めからヘアトリガーにしてある。室内で数メートルの射程で紙製の標的に正確に命中すればよいのだ。人間を的にする拳銃とは違う。
 ホームズもワトソンもサルーンピストルのことぐらいは知っていたはずだけれども、そんな軟弱な遊びは問題外だと思ったのだろう。ホームズはこういうピストルを使ったのではない。悪者を撃つためのふつうの拳銃に少々細工して室内射撃に用いたのだ。 

 しかし武器にならない威力の弱い道具を使う、サルーンピストルとよく似た発想の遊びは日本にもあった。楊弓である。

Photo_2

 森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』に浅草の奥山の楊弓店の話が出て来る。

 楊弓店のある、狭い巷に出た。どの店にもお白いを附けた女のいるのを、僕は珍らしく思って見た。お父様はここへは連れて来なかったのである。僕はこの女達の顔に就いて、不思議な観察をした。彼等の顔は当前の人間の顔ではないのである。今まで見た、普通の女とは違って、皆一種の stereotype な顔をしている。僕の今の詞を以て言えば、この女達の顔は凝結した表情を示しているのである。僕はその顔を見てこう思った。何故皆揃ってあんな顔をしているのであろう。子供に好い子をお為というと、変な顔をする。この女達は、皆その子供のように、変な顔をしている。眉はなるたけ高く、甚だしきは髪の生際まで吊るし上げてある。目をなるたけ大きくみはっている。物を言っても笑っても、鼻から上を動かさないようにしている。どうして言い合せたように、こんな顔をしているだろうと思った。僕には分からなかったが、これは売物の顔であった。これは prostitution の相貌であった。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/695_22806.html

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