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2011年3月29日 (火)

ボクサー弾を百発(7)

ホームズがその変な好みから、微力発射装置つきのピストルとボクサ弾を百発もって……(延原謙訳)

 昔から「微力発射装置つきのピストル」という日本語が不思議だった。

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 微力発射装置はどこに付くのか? 引金のほかにさらに別の発射装置がくっついているのか? 
 hair-triggerをOEDで引いてみて驚いた。定義は
 

A secondary trigger in a firearm, which acts by setting free a spring mechanism called the hair, and being delicately adjusted, releases the main trigger by very slight pressure.

銃の補助的な引金であって、「ヘア」と呼ばれるバネ装置を解放することにより作動し、高感度に調整されているので、ごく微小の圧力で主引金を引くことになるもの

 OEDの間違いを発見した! ヘアトリガーと言えば「ごく軽く引ける引金」というだけの意味であることは常識だ。この定義では、一つの銃に二つの引金、secondary triggerとmain triggerとがあるように読める。そんな銃はない。
 あるいは独自の「微力発射装置」すなわち「補助的/第二次的引金」をくっつけた銃を発明して特許を取った人でもいるのかな。しかしそんなものは実用に適しないから普及しなかった。「ヘアと呼ばれるバネ装置」も変だ。ヘアトリガーのヘアは「髪の毛のように軽い」という意味だ。OEDの編者は銃のことをよく知らず、どこかの辞書に間違ったことが書いてあるのをそのまま写したのだろう。(私の見たのはOEDでもCD-ROM Version3.0だ。現在のVersion4では間違いが直っているか?)延原謙氏はその間違った辞書を見たのかな?
 例文で一番古いのは1830年だ。

1830 E. Campbell Dict. Mil. Sc. 249 The hair trigger, when set, lets off the cock by the slightest touch; whereas the common trigger requires a greater degree of force. 

1830年。E・キャンベル『軍事学辞典』249頁。ヘアトリガーは、セットすればごく軽く触っただけで撃鉄を倒す。これに対してふつうの引金にはもっと強い力が必要である。

 この例文からは、引金に「ふつうの引金」と「ふつうでない引金」の二つのタイプがあり、ヘアトリガーはふつうでない引金の一種であることが分かる。一つの銃に引金は一つで、それを軽く引けるように調整するのだ。2番目の例文。

1836 T. Hook G. Gurney II. 192 My pistol, which had the hair trigger set, went off. 

1836年。T・フック『G・ガーニー第2巻』192頁。私のピストルはヘアトリガーがセットしてあったが、弾が出てしまった。

 引金は軽ければ軽いほど命中率が高い。それならどんな銃でもヘアトリガーにすればよいか? それはだめだ。引金があまり軽いと撃とうと思わないときに弾が出てしまうことがある。シャーロック・ホームズは拳銃を無造作にポケットに突っ込んで出かけることがある。これができるのはヘアトリガーではないからだ。実用に供する拳銃では引金の重さの最低限度が決められている。

Sherlock1

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