« 日本の原発技術が世界を? | トップページ | 少量の放射能はむしろ有益? »

2011年4月12日 (火)

ボクサー弾を百発(10)

 ホームズが愛国的頭文字を描くのに使った拳銃は、45口径か38口径で六連発のリヴォルヴァーだろう。ふだん使うのと同じ型のをもう一挺持っていて、これに細工してヘアトリガーにしたのだ。
 弾丸(カートリッジ)も特別のものを使った。これはワトソンが書いていないから詳しいことは分からない。
 しかし同時代に同じように室内射撃をした例があるから、そちらを見ればホームズの場合も分かる――という見込みだった。
 ところが、そう簡単に行かない。この室内射撃の話は私が前に訳したのだが、少々誤訳がある。これは訂正すれば済むが、原文が間違っている。しばらく脇へ置いておくしかない。
 ホームズが使ったカートリッジはどう特別だったか? 
 結論から言えば、「狭窄弾」だったはずだ。

きょうさくだん〔狭窄弾〕
〈名〉A miniature cartridge
◆狭窄弾射撃 miniature cartridge practice 

 昭和3年(1928年)刊のこの辞書には狭窄弾という項目がある。戦前の日本陸軍では狭窄弾射撃の訓練をしていた。ふつうの小銃射撃訓練は200mから600mくらいの距離で行う。もちろん日本陸軍でもこれは実施したが、射撃場を確保するのが大変だった。小銃弾は1000m以上飛んだ後でも殺傷力があるから、流れ弾が心配だったのだ。狭窄弾射撃は15mの距離で行う。狭窄弾は装薬の量を大幅に減らしてある。銃弾は放物線を描いて飛ぶので、数百メートルの距離では弾道のドロップが問題になる。装薬の量が多ければ多いほど弾道は直線に近づき(低伸性が高くなり)ドロップが小さくなる。しかし15mの距離ならば弾道のドロップは考慮しなくてよいので、装薬の量を極端に減らすことができるのだ。
 日本陸軍の三八式歩兵銃の狭窄弾は工場製だった。

Imagescatkbfaf

http://blog.livedoor.jp/ak43j/archives/cat_75814.html

  シャーロック・ホームズの拳銃の場合は、ボクサー式雷管付き実包を使っていた。これは薬莢の再利用が容易だという特長があるのだった。ホームズは一度使った古い薬莢から雷管を抜いて新しいのに換え、ごく微量の装薬を詰め、新しい弾頭をつけて狭窄弾を作ったに違いない。ところが狭窄弾miniature cartridgeという言葉はあまり知られていない。ワトソンも知らなかったので、Boxer cartridgeという言葉を使ってしまったのだろう。雷管がBoxer式でなくBerdan式ならばホームズが自分で狭窄弾を作ることはできなかったのだから、Boxer cartridgeは当たらずと言えども遠からずだ。
 狭窄弾を使えばVRの文字をきれいに描くことができる。強力な拳銃弾を使って壁に大穴を開けたりすれば、いくらハドソン夫人がlong-suffering womanであっても、ホームズは下宿を追い出されるだろう。

|

« 日本の原発技術が世界を? | トップページ | 少量の放射能はむしろ有益? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21109/39580172

この記事へのトラックバック一覧です: ボクサー弾を百発(10):

« 日本の原発技術が世界を? | トップページ | 少量の放射能はむしろ有益? »