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2011年11月29日 (火)

バートランド・ラッセルと予備校

[バートランド・ラッセル(1872―1970)は18歳まで家庭で教育された。ドイツ人やフランス人の家庭教師がいた。兄のフランクに数学を習ったが、ラテン語やギリシャ語はやらなかった。ラッセルは1890年10月に18歳でケンブリッジのトリニティ・カレッジに入学した。]
 かれが大学以前の教育を完了するには、ひとつだけ必要なことが残されていた。ケンブリッジへ入学するためには、バートランドはラテン語とギリシャ語を要求された水準まで仕上げなければならなかったのである。また[ケンブリッジでの]奨学金を志望することになった――これは金がなかったからではなく、他の少年たちとの競争でどこまで行けるかということを試すためだった。このために、バートランドはいわゆる「速成塾(クラマー)」にやられた。クラマーというのは、サンドハーストの士官学校を受験しようとする少年たちのために、学習指導をすることを主な目的とする学校であるが、レイディ・ジョンは、察するに、パブリック・スクールに反感をもっていたのでクラマーをえらんだのであろう。(p.p.31-2)

 バートランド・ラッセルは、ウィンストン・チャーチル(1874―1965)と同時代人である。少し年上のシャーロック・ホームズ(1854―)などもそうだったが、パブリック・スクールへ行かず家庭で教育を受けて大学へ進むという道があったことが分かる。
 大学に入るには「ラテン語とギリシャ語を要求された水準まで仕上げなければならなかった」というのは、入試があったのか? あったとしても競争試験ではなく資格試験だったようだ。

 ラッセルより2歳年下のチャーチルは、もし士官学校ではなくて大学へ行くのだったらジェイムズ大尉の主宰するクラマーへなど行かず、ハロウ校に残っていただろう。
 ラッセルはクラマーに18ヶ月通い、「普通の生徒が6年以上かかって覚える古典の知識をわがものにし、ケンブリッジ入学者のための奨学金を獲得した」という。この奨学生試験の答案は、後にラッセルと共著でプリンキピア・マテマティカを書いたアルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(1861―1947)が採点者として見てひどく感心したという。ホワイドヘッドは学生たちに「ラッセルという新入生に注目せよ」と言ったので、色々な学生が会いに来て、ラッセルは「The Apostles使徒会」という秘密結社の一員となった。
 ところが、この奨学生試験というのが具体的にどういうものだったか、科目は何で、どういう問題だったか、はアラン・ウッドの伝記には書いてない。ラッセルの自伝にも書いてない。

 1895年にセントルーク・カレッジで行われたフォーテスキュー奨学金試験には、ギリシャ語が科目として含まれていた。担当のヒルトン・ソームズ氏が出した問題はツキュディデスのある章の半分の英訳であった(「三人の学生」)。
 こういうふうに試験の内容を詳しく書いたものが残っているのは、シャーロック・ホームズが捜査に関わったからである。
 ラッセルの受けた奨学金試験の内容など記録しておく値打ちはないと考えられたのだろう。奨学金試験を受けたのなら入学試験は免除されたのだろうか? 入試はどういうものだったのか? 普通にパブリック・スクールを卒業した者も受験する必要があったのか? こういう疑問に答えられるようなものは読んだことがない。
 予備校と言えば、モリアーティ教授なども先生だった陸軍士官学校受験用の学校が主流だったことは確からしい。ラッセルが18ヶ月通った学校もそうだった。そういう学校で他の試験を受ける者も引き受けたのだろう。
 ハロルド・スタックハーストがやっているザ・ゲイブルズというcoaching establishmentもそういう学校だったのではないか? ホームズは
The Gables,quite a large place, which contains some score of young fellows preparing for various professions, with a staff of several masters.
と書いていて、文字通りに読むと士官学校受験生などはいないようであるが、それでは経営が成り立たないだろう。professionsの中でも弁護士などは試験がごく簡単だった。マハトマ・ガンジーは1891年にバリスター(法廷弁護士)の資格を取ったが、ほとんど勉強はしなかったようだ。crammer(受験予備校)とむきつけに書くのは気の毒だと考えてホームズが筆を控えたのではないだろうか。→「イギリスの予備校」
http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/1-09c7.html

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