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2011年12月 9日 (金)

誤訳談義(2)

 誤訳談義には英語の誤訳もある。たとえば、「ファンタージの王者卿(ロード)ダンセイニをあげよう」と倉田氏は言う。

――戦前は戯曲だけ紹介され、劇作家として知られていたマイナー・ポエットだが、最近はむしろ幻想文学者として再評価されている。その発掘紹介に全力投球したのが荒俣宏といって、幻想文学研究にかけては日本でも指折りの人だ。『別世界通信』とか『幻想文学作家名鑑』とか、厖大な読書量を背景にした立派な業績があってね、敬服しているんだが、ダンセイニの訳文はいただけない。ぼくは旧制高校時代、Gods of Peganaという名作、天下の奇書だと思うけど、それを本郷の古本屋でみつけて以来のダンセイニ・ファンでね。欽定訳聖書の文体に学んだというこの人の簡潔な文章を愛誦してた。だから、荒俣氏のダンセイニ紹介は大歓迎という気持だったが、『思潮』という雑誌(1971年7月号)に出た訳文でガッカリした。
(倉田p.98)

 どうも恐ろしい読者がいたものだ。荒俣宏といえば博識で有名な人だ。しかし倉田氏は創土社刊『ダンセイニ幻想小説集』から誤訳の例をあげている。たとえば

 They made Remorse with his fur grey like a rainy evening, with many rending claws, and Pain……, and Fear……

 という原文を
「神々ら、遠きもの(リモース)を創りき。小雨そぼ降る秋の宵に似せたる灰色の毛、無残にも肉を引き裂く鈎爪をいくた持てる、遠きもの(リモース)をば。……」

 と訳したのはひどい。これ一つならウッカリということもあるが、「一々あげないけど、そういう(別の例のような)無神経さがこの一篇だけで何十箇所もあった」という。

――remorseは「良心の呵責」ですよね。remoteの名詞とでも勘違いしたんですかね。それにしても、「遠きもの」じゃ、PainやFearと並べておかしいと思わなかったかな。
――こんな訳文で紹介されるダンセイニ卿に同情するし、ファンの一人としては切歯扼腕だよ。
――訳者告発という気になりませんか。
――いや、原作への愛情から誤訳指摘はするが、そこまでは考えない。荒俣氏にしても力が足りないだけで、一応良心的にやっていると思えるのでね。

*「原作への愛情から誤訳指摘はする」のは、拙者も同じでござる。原作はもちろんシャーロック・ホームズ。

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