« 誤訳談義(3) | トップページ | ストランド・マガジン »

2011年12月12日 (月)

英語力より日本語力?

 翻訳に必要なのは英語力より日本語力であると言う人がいるが、本当だろうか? 
 もちろん、ウソだ。
「英語力より日本語力」というのは、英語ができない翻訳家がよく言い訳に使う。たとえば

「翻訳者は日本語で勝負すべし」、「英語力より日本語力を」
プロの映像翻訳者を目指す方が必ず耳にする言葉です。そして壁にぶつかった時には(今の自分にこそふさわしい言葉だ)と心に響く言葉でもあります。http://www.jvtacademy.com/news/?id=255
(プロの映像翻訳者として有名な人に戸田奈津子氏がいる。)

 英語から日本語への翻訳なら英語力が大事に決まっている。原文の意味がちゃんと分かれば、ふつうの日本人なら日本語で表せるはずだ。『即興詩人』のような雅文体で翻訳するならまた話は別だが。
 英米人が日本語を英語に訳する場合を考えてみればよろしい。この場合は日本語力が大切なので、日本語がよく分かることがよい翻訳の必要条件であり、ほぼ十分条件だ。
 私は実際にアメリカ人が日本語を英語に訳したものをやり直させられたことがある。
 某社が不祥事を起こして謝罪文を発表することになった。その英訳を頼まれた翻訳会社が「日本語できます」という触れ込みのアメリカ人にやらせた。ところができあがった英訳が劣悪なのでお客さんが翻訳会社に突き返してきた。実務翻訳では、誤訳悪訳に対して厳しい。
 私にお鉢が回ってきた。そのアメリカ人の書いた英文を見てデタラメなのにびっくりした。「全社一丸となって信頼回復に努めて参る所存でございます」の訳にone ballという英語が出てきたのだもの。
 このアメリカ人に英語力が足らなかったとは思えない。「全社一丸」が分からなくて苦し紛れにone ballなんてシュールレアリスティックな英語を書いてしまったのだ。
 英文の日本語訳だって同じことだ。
 ドクター・ワトソンが「そしていまや、真実を秘匿していてもなんの益もない、という時が到来した。それを私は満足に思う」などと書くか? デタラメに決まっている。英語が分からないからこういう文章を書くのだ。米川正夫氏はロシア語力が足りず、榊原晃三氏は英語力が足りなかった。諸氏も英語力が……

 

|

« 誤訳談義(3) | トップページ | ストランド・マガジン »

コメント

やはり日本語力も大事なのですよ。……納得した、なんて意味の通じない文章を書いて何の違和感も覚えないその日本語感覚が狂っているのです。

投稿: ころんぽ | 2011年12月13日 (火) 20時37分

変な表現だなと思っても、英米人は日本人とは違う発想に基づいて変わった言い回しを用いるのだ、そうに違いないと自分に言い聞かせてしまう、そんなところがあるのでは?

投稿: ころんぽ | 2011年12月13日 (火) 20時47分

なるほど。明治時代に有名な翻訳家がlion at bayというのを「湾頭に咆吼する獅子」と訳してしまったという話がありますね。あるいは岩野泡鳴が「直訳主義」をとなえたという話も聞いたことがある。ポーの佐々木直次郎訳が名訳とたたえられたのもそう云うことか。
全社一丸をone ballと訳したアメリカ人も「日本人は群生動物かも知れない」と思ったのか。

投稿: 三十郎 | 2011年12月14日 (水) 07時41分

「オペラ座の怪人」以来、映画館で「字幕 戸田奈津子」を目にすると鬱になる。

投稿: 個人投資家 | 2011年12月20日 (火) 21時54分

実務本訳なら、競争原理が働いてたちまち駆逐されるのですがね。

投稿: 三十郎 | 2011年12月21日 (水) 07時16分

I agree with the blog author. To be more precise, what is primarily important is to understand the text written in the source language, which include BOTH the skill of the source language and the knowledge of the subject. Think about an academic paper on space physics written in Japanese. Even though it is written in Japanese, most educated Japanese native would not understand accurately.
Also, I suppose "意味の通じない文章を書いて何の違和感も覚えないその日本語感覚" is probably not mainly because his/her Japanese skill is low, but most likely is because he/she did not understand the source text clearly (vague understanding can only generate a vague writing) or sometimes because the translator was told by his/her client to use always the same word for the same English word (e,g, translate "to provide" ALWAYS as 提供する). They call this "consistency" and they believe it is a major factor to make high-quality translation, but the truth is, except for proper names and defined technical terms, this consistency is not only effective but rather harmful. But whether we like it or not, this has become a popular misbelief among the clients of the contemporary business translators. As everyone here would agree, any one word has more than one meanings, and the meaning (thus the chosen target-language expression) is determined according to the context.

投稿: miao | 2015年4月10日 (金) 19時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21109/43346256

この記事へのトラックバック一覧です: 英語力より日本語力?:

« 誤訳談義(3) | トップページ | ストランド・マガジン »